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「カンドレ・マンドレ」から「夢の中へ」、進化する井上陽水のソングライティング

2015.03.13

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1969年にアンドレ・カンドレという芸名で登場した井上陽水だが、デビュー曲は「カンドレ・マンドレ」というタイトルだった。
発表されたその当時も今も、どこか変な芸名だし、曲のタイトルもかなり変だ。

最近になって本人は「若気の至りっていうのは怖いよね(笑)」と話しているが、そのどこか変なネーミングには井上陽水という人が持っている、美意識と恥じらいが潜んでいるようにも思える。

芸名に美意識と恥じらいが潜んでいるといえば、すぐに浮かんでくる名前が忌野清志郎である。
二人は井上陽水のベストセラー・アルバム『氷の世界』で、「帰れない二人」と「待ちぼうけ」を一緒にソングライティングしている仲だった。

1982年に行われたこの二人の対談で、「ネーミングでアーティストの面白さっていうのが、わかるんですか?」という司会者の質問に対して、忌野清志郎はこう応えていた。

わかる。
陽水なんか、最初アンドレ・カンドレだったでしょ。
で、出したレコードが「カンドレ・マンドレ」だったし、この人は気が合うだろうなって思ったもの。
(『昭和の歌麿と昭和の写楽 戯言対談』)


気が合う二人が出会った頃の印象について、忌野清志郎はビートルズを研究していたとも語っている。

うーん……あの、ビートルズの曲、やってたんですよ、アンドレ・カンドレって名前で……やっぱり、そのネーミングがすごいと。
それから、ビートルズのコピーがうまいなって、思った、ウン。
すごい、ビートルズの曲、研究してたし、研究熱心なヤツだと思いました、ウン。
(『昭和の歌麿と昭和の写楽 戯言対談』)


井上陽水は1967年から68年にかけて爆発的にヒットしていた”変な歌”、ザ・フォーク・クルセダーズの「帰ってきたヨッパライ」を聴いて、これなら自分にもできると思って「カンドレ・マンドレ」という曲を作ったという。
だが上質なポップ・ミュージックだった割には、残念ながらまったくヒットしなかった。

カンドレ・マンドレ

 一緒に行こうよ 私と二人で愛の国
 きっと行けるさ 二人で行けるさ夢の国
 ラララ・・・・・・・・・
 
 淋しいことなん そこにはひとつもあるもの
 あなたが愛して 私も愛する それだけさ
 ラララ・・・・・・・・・

 よくお聞きよ 二人の言葉
 ンドレ・マンドレ サンタリ・ワンタリ
 アラホレ・ミロホレ・1234 ABCDEFG

それから4年後の1973年3月1日、井上陽水のシングルとして3枚目の「夢の中へ」が発売になった。
3月3日公開の東宝映画、『放課後』(監督:森谷司郎)の主題歌として使われたこともあって、井上陽水にとっては最初のシングル・ヒットが誕生した。

夢の中へジャケット

「カンドレ・マンドレ」と「夢の中へ」、どちらのタイトルにも共通しているのが、「」という音韻だ。
それは「夢の中へ」の歌詞にはたくさんあって、「カンドレ・マンドレ」の歌詞にはわずかしかない。

「カンドレ・マンドレ」ではワンコーラスに合計で3回、「」という音韻が使われていた。
だが、「夢の中へ」の歌詞では8行全部に使われて、合計で11回も出てくる。

驚くべき頻度にもかかわらず、日本語としては自然な歌詞に聞こえるのは天才のなせるわざだろう。

・井上陽水「夢の中へ」

 探し物は何です 見つけ難い物です
 バンのも 机の
 探したけれど 見つらないのに
 まだまだ探す気です
 それより僕と 踊りません
 夢のへ 夢の
 行ってみたいと 思いません
Woo woo woo– Woo woo woo– Woo woo

声に出して読めばわかるが、歯切れがよい「カ」という音韻が積み重なっていくことで、日本語でもビート感のようなノリが生まれてくる。

「カ」の音韻を意識的に多用し、サウンド全体から打ち出されるビートに、日本語を巧く乗せることに成功した井上陽水は、アンドレ・カンドレから明らかに進化していた。

「夢の中へ」で歌われている”探し物”とは、歌詞における日本語の音韻とビートとの関係だったのではないか。

そうだとするならば、井上陽水は探し物を見つけた上に、それを活かす歌唱法にいっそう磨きをかけて、ビートルズの音楽にも通じる”軽やかさと力強さ”を獲得したことになる。

変な歌「カンドレ・マンドレ」から「夢の中へ」と進化したソングライティングは、忌野清志郎が言った”研究熱心なヤツ”がビートルズの曲を徹底して歌うことで、ついに発見した研究の賜物だったのかもしれない。

・アンドレ・カンドレ「カンドレ・マンドレ」


(注)『昭和の歌麿と昭和の写楽 戯言対談』は「井上陽水 FILE FROM 1969」(TOKYO FM出版)からの引用です。


井上陽水『弾き語りパッション』
FOR LIFE MUSIC ENTERTAINMENT,INC


名『井上陽水 FILE FROM 1969』(単行本)
エフエム東京

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