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ジェームス・ブラウンとボビー・バード〜10代の頃に刑務所にいたJBの更生を手助けした盟友、出会いから約20年間JBを支え続けた男

2019.12.28

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ジェームス・ブラウンが1970年に発表したヒット曲「Get Up (I Feel Like Being a) Sex Machine」において“ゲロッパ!”に対する掛け合い・間の手のフレーズ“ゲロンナッ!”を歌っていたボビー・バード。
ジェームズ・ブラウンの「盟友」「右腕」「女房役」として知られた男である。
二人の出会いは運命的なものだった…

1933年、アメリカ南部の掘っ立て小屋のような家で生まれたJBは4歳で母親に捨てられ、幼い頃から売春宿を営む祖母と共に暮らすなどして極貧生活の中で育ったという。
貧しいながらも音楽や野球、そしてボクシングに熱中していた彼は、大きくなるにつれて食べるもの着るもの欲しさに万引きや盗みを働くようになる。

「いつから盗みをするようになったのかは忘れたが、どうして盗みを始めるようになったのかは憶えているよ。学校に着ていくマシな服を手に入れるためだった。オヤジは俺に何も買ってくれなかったから自分の面倒は自分で見なくちゃならなかったんだ。」


15歳になった彼は不良仲間達と他人の車の中からコートなどを盗み出そうとしているところを警察官に見つかり現行犯で逮捕される。
初犯ではなかった彼に与えられたのは、8年から16年という重い刑罰だった。

「俺は間抜けだったから監獄に送られることになったんだ。」


JBは刑務所の中で仲間たちとゴスペルグループを結成し、所内の人気者になる。
“ミュージックボックス”というあだ名をもらった彼は、しだいに将来ミュージシャンとして成功する夢を描くようになる。

「刑務所の仲間はあまり音楽に馴染みがなかったから、俺が教えてやったんだ。ゴスペルを歌うことは音楽一般を学ぶ良い方法だ。テノール、バリトン、バス、と異なるパートをそれぞれ覚えてハーモニーを作る。楽器の演奏も同じようにしてできあがる。」


受刑者の青年たちはスポーツや音楽活動を通じて塀の外の野球チームやゴスペルグループとも交流を持つようになる。
そこで出会ったのが一歳年下のボビー・バードだった。

「君の噂は聞いているよ。みんなが“ミュージックボックス”と呼んでいるんだってね。」

「ああ、俺もお前のことは聞いているよ。キーボードを弾かせたら最高だってね。」


それが最初の会話だった。
入所してから3年が経ち、19歳になったJBは仮出所のチャンスを得る。
それは真面目な生活態度とゴスペルグループとしての活躍が好印象を与えたおかげだったという。
ただし、彼には(また不良仲間とつるむかもしれない)育った街リッチモンド郡オーガスタへもどることは許されず、刑務所のあったトコアの街で生活することが条件づけられていた。

「仮釈放を認めるにはトコアの街で仕事を探しなさい。そしてここで保証人となってくれる人と一定の場所に住むことが条件だ。」


幸いゴスペルを通じて知り合っていたボビー・バードの家族が保証人となり面倒をみてくれたおかげで、彼は家と仕事を得ることができたのだ。
1953年、二十歳になった彼はボビーが組んでいたグループ“ザ・ゴスペル・スターライターズ”に加入して音楽活動に専念するようになる。
貧しい彼らに楽器はなく、店にあるピアノを借りてアカペラで演奏する毎日だったという。

「その頃のレパートリーは、クライド・マクファーターを中心としていたドミノスやファイブ・ロイヤルズのナンバーを歌っていたよ。」




昼は肉体労働をして、夜はライブ活動という厳しい生活を送る中、グループにはマネージャーもつき、楽器もそろい、移動用の車も確保、しだいに彼らの名は街でも知られた存在になってゆく。
その後、グループ名を“フェイマス・フレイムズ”と変え、ついにはキング・レコードと契約を結ぶ。
1956年、James Brown with the Famous Flames のクレジットでリリースされた彼らの1stシングル「Please, Please, Please」はチャート5位を記録し、いくなりミリオンセラーを獲得することとなる。
その後、輝かしい成功への階段を駆け上りつつも、波乱万丈な人生を歩んでゆくJBを支え続けたボビー。
その傍若無人な行動や(スターゆえの)横暴で理不尽極まりない態度に耐えながらも…出会いから1973年に袂を分かつまでの約20年間、ボビー・バードこそが誰よりもジェームス・ブラウンの歌声に魅せられたファンであり、理解者だったと言われている…



<引用元・参考文献『俺がJBだ!―ジェームズ・ブラウン自叙伝』ジェームズ・ブラウン(著)
ブルース・タッカー(著)山形浩生(翻訳)クイッグリー裕子(翻訳)渡辺佐智江(翻訳)/文藝春秋>

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