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エディット・ピアフとマレーネ・ディートリヒの特別な友情

2025.10.10

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エディット・ピアフが生涯肌身離さなかった、十字架のペンダントがあるという。それは女優マレーネ・ディートリヒが、ピアフのためにカルティエにオーダーし、特別に作ったものだった。そのペンダントは二人の友情の証として、ピアフの胸元で輝き続けた。

1935年、エディット・ジョヴァンナ・ガション(ピアフ当時20歳)は、パリの有名なナイトクラブ『ルプレー』の支配人に才能を認められ、専属歌手として歌うようになる。

身長が142センチしかなかった彼女に対して、支配人は「小さな雀(La Mome Piaf)」という愛称を与え、そのことをきっかけに“エディット・ピアフ”という芸名が誕生した。

飾り気のない黒いドレスを着て舞台に上がり、両手を振り上げて歌詞を強調し、全身を使って歌い上げるピアフのスタイルは、当時の流行とはまったく異なっていた。

最初は人気がなかったピアフだったが、人の心を鷲掴みにするような歌声で徐々にファンを増やしていった。第二次世界大戦後は世界的な人気を得て、ヨーロッパ、アメリカ、南アメリカへと公演旅行を行うようにもなった。

そして1947年のアメリカ初公演で、ピアフは生涯の友となるマレーネ・ディートリヒと運命的な出会いを果たす。

ディートリヒはピアフよりも14歳年上で、当時は既に大女優であり、歌手としても人気を博していた。ディートリヒはドイツの出身でありながら、ナチスドイツの横暴さを嫌い、身の危険もかえりみず戦場に赴き、連合軍の慰問を行っていた勇猛な女性だった。

ピアフもまた、激動の第二次世界大戦において、ナチスドイツに対して批判的な姿勢を貫いていた人物である。ピアフは、ディートリヒの人間としての生き方を心から尊敬していた。ディートリヒも、ピアフのことを妹のように可愛がった。

「私はそれまで彼女よりも頭が良くて美しい女性に会ったことがなかった。彼女のような人が本物のスターなのね」(エディット・ピアフ)


「リラックスして。私にとってあなたはパリそのもの。以前私が愛したジャン・ギャバンみたい。見かけはとても弱々しそうだけど、あなたも彼みたいに力強い人よ」(マレーネ・ディートリヒ)


ある日、ディートリヒは、カルティエに特別オーダーした十字架のネックレスをピアフに贈った。ピアフは、それを生涯肌身離さず身に着けていたという。

ディートリヒは、ピアフが望んだことをできる限り手助けした。ニューヨークのナイトクラブ『ヴェルサイユ』では、自らが衣裳の着付けを買って出て、毎晩のようにピアフが独り言のように話し始める“愛の渇望”の聞き役となった。

1949年、ニューヨークでのボクシングの試合が決まった恋人マルセル・セルダンに対して、ピアフは「とても待てないの、早く会いに来て!」と手紙を書く。セルダンは船の予約をキャンセルして飛行機でニューヨークに向かう。

セルダンがニューヨークの空港へ到着する夜は、ピアフとディートリヒの二人で迎えに行くことになっていた。しかし、セルダンが乗った飛行機は、アゾレス諸島上空で墜落事故に遭い……ピアフにとって最愛の恋人は帰らぬ人となった。

「事故は彼女が眠っている時間に起こった。私は時間が来たらピアフを起こし、この悲劇を知らせなくてはいけない役だった」


ピアフの寝室には医者が駆けつけ、鎮静剤が準備された。ディートリヒを含め、この悲劇を知った関係者は皆、その夜予定されていたニューヨークでのショーをきっとピアフが降板すると思っていた。

しかし、ピアフは決行したのだ。ディートリヒは、せめて「愛の讃歌」だけはプログラムから外すように指揮者に頼もうとした。「あなたが死ねば、私も死ぬ」と歌われるからだ。


その夜、ステージに立ったピアフは、かつてなく感動的にその曲を歌いあげた。ディートリヒはそれから数日間、暗いホテルの一室で、ピアフの手を握って過ごした。

「彼女はあらゆる手段を用いてセルダンの魂を呼び戻そうとしていたの。その狂気じみた絶望がそのうち消えることを望んでいたわ」


ピアフは胸元の十字架のネックレスを握りしめながら、幾晩も涙を流した。

<引用元・参考文献『ディートリッヒ自伝』マレーネ ディートリッヒ (著)、石井栄子 (翻訳)中島弘子(翻訳)、伊藤容子(翻訳)未来社>


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