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ロッド・スチュワートのFirst Step〜ボブ・ディランの洗礼、ロング・ジョン・ボルドリーとの出会い

2019.04.13

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1960年1月10日、それは彼の15歳の誕生日の出来事だった。
サッカー好きで、鉄道模型の収集が趣味で、いたって真面目な学校生活を送っていた彼に転機が訪れる。
彼は父親からクラシックギターをプレゼントされる。

「俺が欲しかったのは木でできた鉄道模型の駅舎だったんだけど、なんで親父は俺へのプレゼントにギターがいいと思ったんだ?どっかで拾ったとか、安かったとか…理由は考えられるけどね(笑)俺は不満気な顔をしつつも、その日からギターをいじるようになったんだ。学校でもギターを持ってる奴らがいたりして、イギリスではちょうど“スキッフル”が流行っていて、ロドニー・ドネガンが皆の憧れだった。俺の音楽キャリアの中で、最初に歌えるようになったがロニーの“Rock Island Line”という曲だった。」



1962年、17歳になった彼は一枚のレコードから大きな衝撃を受ける。
ボブ・ディランのデビューアルバム『Bob Dylan』を聴いたその日、彼の音楽人生の扉が開いたのだ。

「大地を揺るがすような衝撃だったよ。あの一枚が俺の人生を変え、俺の周りの空気を一変させてしまったんだ。」



「“Talkin’ New York”を聴いた瞬間、走ってその場所まで行きたくなったよ。広くて開放的なアメリカという可能性に満ちた世界を体験したくてね。後にも先にも、ディランの音楽ほど俺に影響を与えてくれたものはないよ。」


彼はディランに魅せられ、自分もディランのように歌いたい!という衝動に駆られ、一本のギターを手に入れる。

「俺は貯金していた10ポンドと親父から借りた30ポンドで(ようやくまともにチューニングも合わせられる)Zenithのアコースティックギターを手に入れたんだ。ウエストエンドにある“アンヴァー・マイランツ”という楽器店でね。ついでにハーモニカホルダーも買ったんだ。これでディランの曲は完璧にやれる!ってはりきっていたよ。だけど、知り合いからハーモニカは吹くだけじゃなくて吸ってもいいって指摘されたのは、それから一年くらい経ってのことだった(笑)」


当時、彼は父親の新聞販売店の店番を任されていた。
真面目に働くふりをしながら…父親の姿が見えなくなると、彼はドアに“閉店”の札をかけて、裏庭に行ってディランの曲をマスターするために、ひたすらギターを弾きながら過ごしていたという。
1963年、18歳になった彼は、あるミュージシャンと運命的な出会いをする。

「ロング・ジョン・ボルドリーにはもの凄く世話になったよ。彼が俺を歌手にしてくれたんだ。存命中は彼のことを愛したし、亡くなったときは打ちひしがれたよ。財布にはいつも彼の写真を持ち歩いてたくらいで、正直な話、彼のことを考えない日なんてないんだ。」


ある日、ロング・ジョン・ボルドリーが真夜中に駅のホームで酔っ払って歌っていた彼を気に入って、まるで拾って帰るみたいにして自身のバンドザ・フーチー・クーチー・メンに誘ったというのだ。
彼はそれから「スティーム・パケット」「ショットガン・エクスプレス」「ジェフ・ベック・グループ」「フェイセズ」「ソロ」と出世して、ロック界を代表するヴォーカリストへと成長してゆく…
ロング・ジョン・ボルドリーといえば、ロッドやをはじめ、ローリング・ストーンズやジェフ・ベック、エルトン・ジョンなど多くの英国ミュージシャン達にとって“兄貴分的”な存在として君臨していた歌手だった。
2メートルもある長身であったため、親しみをこめて”ロング”と呼ばれながら、イギリスロック創成期を築いた人物の一人として知られた男である。



「当時18歳だった俺は、ある日ガールフレンドに連れられて噂になっていたバンドを観に行くことになったんだ。彼らの名前はザ・ローリング・ストーンズ。ボーカルのミックがカーディガン姿でブルースのカヴァー曲を中心に歌っていた。彼らは見事に客を引きつけていたよ。ロング・ジョンはミックのことを“悪戯好きな小鬼を中世風に表現している人物”と評していたけど、これはかなり言い当てていたと思う。この時、ミックとは顔を合わせなかったけど、凄いバンドだと思ったのは憶えているよ。一方で、心の中では厚かましくも“俺の方が声がいい”と思っていたよ(笑)」



<引用元・参考文献『ロッド・スチュワート自伝』ロッド・スチュワート (著)中川泉 (翻訳)/ サンクチュアリ出版>

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