仲井戸麗市(チャボ)の質問に答えて、Charが15、6歳の頃の話をしながら音楽人生のはじまりについて語ったBS11のテレビ番組『オン・ザ・ロック!』が、「ON THE ROCK 仲井戸麗市”ロック”対談集」として書籍化された。
そのなかで音楽業界の一部では知られていたギタリスト伝説、ソロ・デビューする前のCharと、あるギタリストにまつわるエピソードが活字になっている。
ホスト役をつとめる仲井戸が「ある日、上手なプロのお兄さんがいたんだよ。まぁ、俺も知ってる人だけど(笑)」と切り出し、その先をうながすと、Charがまだ少年だった頃に、プロのバンドのライブが終わった後でギタリストに向かって「お兄ちゃん、僕のほうがうまいよ」と言ったという話が始まった。
5歳年上だった兄が音楽好きだったことからの影響や、ギターを弾くことにおける対抗心もあって、Charはかなり早熟で態度も大人ぶっていたようだ。中学生の頃からゴーゴー喫茶とか、ロックコンサートにも行くようになった。
ヤマハが銀座でやっていたイベントを見に行ったり、ロカビリー時代から続いていたジャズ喫茶「銀座のACB」にも通っていたという。そんなある日、マックスというロックバンドを観終わったときの様子が、仲井戸との会話から浮かび上がってくる。
C その人が、外国の楽器を使ったのよ。お年玉400年分くらいの、俺らが絶対買えないようなやつ。当時で20~30万くらい。
仲 どんな感じで、その人のとこ行ったんだっけ?
C 「お前にはもったいねえよ」って感じで(笑)。そのとき、シカゴの「長い夜」をやってたんだよ。
仲 なかなか難しい曲だよな。
C そうそう。できてないのにやってて。俺はシカゴのレコードを何枚か持ってて、ギターソロの部分だけコピーしてたからね。それで、その人に「適当じゃん」って言ったの。ただ本当は、その人が使ってたギターを触りたかったんだけどね。
その人のエレキギターは、本物のギブソンES-335だった。
そうした高価な楽器は当時、必ずショーウインドーに入っていて、子供になんか絶対に触らせてくれなかった。もちろん高くて買えないし、友だちも持っていない。
ES-335を至近距離で目のあたりにしたCharは、純粋にそのギターに触りたくなった。この話が面白いのはここからである。
どこからか入ってきた生意気そうな少年に対して、その人は「僕、どこから入ってきたの?」と聞いたが、「ちょっとさっきの曲、弾いていいですか?」というのが返事だった。
そこで実際にギターを弾かせてみると、あまりの腕前に驚いて、「僕、何者?」ということになった。「うわ~これだ~!クラプトンも使ってた!」と夢中になって弾いている少年は、続いてクリームの曲も見事に弾きこなした。
その人はその頃、将来のことを考えてゆくゆくはプロデューサーになろうかと思っていたらしい。
Charは「譜面わかる?」とその人から訊ねられたが、ほんとうはろくに読めないのに「譜面くらいわかるよ」と生意気に言い返した。その結果、本来はその人が引き受けるはずだった仕事が回ってきたのである。
当時はジャズの譜面集はあったが、まだロックギターの教則本はなかった。ギターを弾く予定だったその人は『ロック完全マスター』の監修にまわり、付属するカセットテープに収録する演奏のレコーディングに少年を抜擢した。
C いろんなパターンでやろうってことで、カセットを作ったりして。そこで俺がクラプトン役になったの。15、6歳の子供が先生をやってるんだよ(笑)。
仲 すごいよな。これ、もうChar個人というより、日本のロックの歴史みたいな話になってるよな。
萩原暁という名前のその人はおそらく、Charのギターを聴いて現役を早めに退く決心がついたのだろう。彼はそれからプロデューサーになり、歌手としてデビューするCharの「逆光線」や、ヤマハ出身の小坂明子の「あなた」などのヒット曲を手がけていく。
萩原がいたマックスは1968年のヤマハ・ライト・ミュージック・コンテスト全国大会において、ヴォーカル・グループ・サウンズ部門で優勝している。
その後、吉田拓郎がエレックレコードでブレイクするきっかけとなるアルバム『青春の詩』に参加し、泉谷しげるや古井戸などといったアーティストのレコーディングでリズムセクションを担当した。
弟の萩原克己はドラム、山口剛がベースだったが、この二人も70年代に入ってからエレックの制作を担うディレクターとなった。山口は「ずうとるび」のディレクターを担当、弟の克己は山崎ハコなどを世に送り出したほか、大瀧詠一のナイアガラ・レーベルも担当した。
萩原兄弟との縁ができたCharはまだ10代後半ながらも、ギタリストとしてエレックのレコーディングに呼ばれて頭角を現していく。
また、1973年から1974年にかけては金子マリ、鳴瀬喜博といったミュージシャンと、スモーキーメディスンを組んでバンド活動をし、ロックシーンで注目を集めた。
エレックからデビューしたフォーク・デュオ「竜とかおる」の佐藤龍一は、自身のブログでCharについてこう記している。
若い頃のCharは本当に生意気だったが、それを上回る実力で、時代の扉を開いた。エレックのスタジオでデモテープを録音しているスモーキーメディスンを見たが、洋楽にしか聴こえず、目が点になった。その時はスリー・ドッグ・ナイトの「Joy To The World」をカバーしていた。
「佐藤龍一の流星オーバードライブ」http://blog.livedoor.jp/miotron/archives/52243401.html
弟の萩原がディレクターだった山崎ハコのデビュー・アルバム『飛・び・ま・す』では、本名の竹中尚人でクレジットされていたCharの演奏が聴くことができる。
ドラムが村上“ポンタ”秀一、ベースは小原礼、キーボードとアレンジが佐藤準、アコースティック・ギターが吉川忠英、そしてエレキギターが大村憲司というそうそうたるメンバーの「さよならの鐘」で、Charはまったく引けをとらない存在感を放っている。
日本を代表するスタジオ・ミュージシャンに混じって弾くギターソロにも、18歳の山崎ハコの瑞々しいヴォーカルにも通じ合う、若さと力強さがみなぎっていた。
なお対談の最後は、仲井戸のこんな言葉で締められていた。
17歳のときから知ってるけど、いろんな意味でそのセンス、ずっとイカしてます。俺はCharを日本のロックの宝だと思っています。
(引用文献)本文中に引用した対談と仲井戸麗市氏のコメントは、「ON THE ROCK 仲井戸麗市”ロック”対談集」(立東舎)からの引用です。
*このコラムは2017年10月に公開されました。


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