ジョニー・キャッシュが自分と同じレコード会社のCBSが出したという新人、ボブ・ディランの歌を聴いたのは1962年5月、ツアー中でラスベガスに来ていた時だった。
CBSの伝説的なA&Rマンだったジョン・ハモンドが見出した新人のフォーク・シンガーについて、キャッシュは「最高のカントリー・シンガーだと思ったんだ。本当にね」と振り返っている。
何度もレコードを聴いたあとで、キャッシュは手紙をディランに送った。
手紙を受け取ったディランから来た返事には、「I Walk The Line」のことなどについて書かれていたという。それを読むことはできないが、ディランの言葉から内容を少しだけ想像することができる。
ボブ・ディランは自伝のなかで、ジョニー・キャッシュの歌を聴いた時のことをこう書いている。
大昔、初めて「I Walk The Line」を聞いたとき、神様が「おまえはそこでいったい何をしている?」と語りかけてきたように感じた
ファースト・アルバム「Bob Dylan」の売れ行きが悪くて、コロンビアレコードとの契約が微妙だった時期だったので、CBSへ大きな影響力を持っていたキャッシュの後押しは効いた。
これをきっかけに二人の手紙による親交が始まったが、互いに忙しくてなかなか会うことは出来なかった。
そんな二人が実際に会ったのは翌年の初夏だった。ライブでニューヨークを訪れたキャッシュと、ディランはジョン・ハモンドの仲介で会った。初対面の二人は数時間ほど、曲のことを話したり、互いの曲を歌ったりして過ごした。
このとき、キャッシュのシングル「Ring of Fire」はカントリー・チャートのNo.1の座にいた。だがディランの「風に吹かれて」も、ピーター・ポール&マリーのカヴァー・ヴァージョンのシングルが、ポップス・チャートを急激に上昇するところだった。
それが大ヒットしてディランは、公民権運動や反戦運動と結びついて広く歌われるフォーク・ソングのソングライターとして認められた。そして社会性のある歌を次々に発表したことで、ディランはフォークのプリンスとして注目を集める。
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