毎年12月1日は世界エイズデーに定められている。
2014年のこの日、ニューヨークのタイムズ・スクエア前ではエイズのことをもっと知ってもらいたい、寄付を募りたいという目的から、U2らによるサプライズコンサートが催されていた。
しかし、フロントマンのボノは前月にサイクリング中の事故で重傷を負い、ステージに立てる状態ではなかった。
その穴を埋めようと駆けつけて代役を務めたのがコールド・プレイのクリス・マーティン、そしてブルース・スプリングスティーンだった。
1960年生まれのボノと、1949年生まれのブルース。
10歳ほど離れている2人は、お互いの音楽に刺激を与え合い、時には兄弟のような間柄として支えあってきた。
怪我をしたボノにブルースが手を貸したのも、これが初めてのことではなかった。
1987年、U2がアメリカをツアーで回っていた9月のある日、ボノは誤ってステージから落ちて左肩を脱臼してしまう。
しかしツアーを中断するわけにはいかない。
ボノは腕を包帯で固定された状態で登場した。
そして観客の1人をステージに上げて自分の代わりにギターを弾いてもらう、そんなファンサービスでコンサートを盛り上げた。
9月25日、この日はフィラデルフィアのJFKスタジアムでのコンサートだった。
アンコールを迎えたところで、ボノはいつものように「誰か俺のギターを弾きたい奴はいないか?」と観客に呼びかける。
すると、ボノのギターを肩にかけたブルースがステージ袖から登場した。
「ブルース・スプリングスティーンは俺のギターを弾くのが好きなのか!?」
思いもかけないゲストの登場に会場が興奮に包まれる中、U2とブルースはスタンダートでお馴染みの「スタンド・バイ・ミー」を演奏した。
その後、2人の交流は年を追うごとに親密なものとなった。
1999年にブルースがロックの殿堂入りを果たしたとき、受賞式ではボノが誘導役を務めた。
そして2005年、U2がロックの殿堂入りを果たしたときにはブルースがその役を務めたのだ。
同じ年のローリング・ストーン誌のインタビューで、ボノは2人の間柄についてこう答えている。
「俺とブルースは大きなサーカス団のメンバーなんだ。俺がいつまでも”綱渡り”をしてるからブルースは困ってるだろうね。そんなときは兄貴として下にネットがあることを教えてくれるんだ」
U2は今年の9月、itunesで新作アルバム『Songs of Innocence』を無料配信したが、そのやり方が強引だという批判を受けて、後日謝罪をしている。
しかしブルースが見守っている限り、ボノはこの先も新しいことへの挑戦を続けていくだろう。