1969年2月、ボブ・ディランはカントリーの聖地、ナッシュビルにいた。
激動する時代の波にのまれ、バイク事故による休養も重なってコンサートから遠ざかっていたディランが、復活を図るために選んだ地がナッシュビルだった。
スタジオで新作のレコーディングを終えようとしていたある日、隣でレコーディングしていたジョニー・キャッシュが挨拶しにくる。
二人は顔を合わせるとおもむろにギターで遊びはじめ、気がつけばセッションが始まっていた。急遽テープが回されて録音された二人のセッションは、2日間で十数曲ほどになった。
2ヶ月後に発表されたディランのアルバム「ナッシュビル・スカイライン(Nashville Skyline)」の1曲目を飾ったのは、その時に二人で歌った「北国の少女(Girl From The North County)」である。
ディランは後に「私にとって、ある種、宗教的な人物でね 」と語っているが、ジョニー・キャッシュの登場はまさに救いだった。
「北国の少女」を聴くと、二人とも肩の力を抜き、気持ちよさそうに歌っているのが伝わってくる。特にディランは、禁煙していたこともあってか信じられないくらいの美声だ。
ただしこの時、二人の歌詞には微妙な違いがみられる。
“She was once a true love of mine”とキャッシュが歌い、
“She once was a true love of mine”とディランは歌っている。
下打ち合わせなどは、ほとんどなかったのだろう。
ところでこの歌詞に聞き覚えのある人もいるかもしれない。というのも、サイモン&ガーファンクル(以下S&G)の「スカーボロー・フェア(Scarborough Fair)」に同様の歌詞が出てくるからだ。
イングランド民謡であるこの歌をディランとS&Gに教えたのは、イギリスのトラッド・ミュージシャン、マーティン・カシー。この歌を元にして「北国の少女」は書かれたのだ。
さて、ナッシュビルとジョニー・キャッシュによって復活を果たしたディランだが、その借りは半年後に始まるテレビ番組「ジョニー・キャッシュショー」で返すこととなる。



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