1950年2月5日、PANTAこと中村治雄は埼玉県の所沢市で生まれた。
父親は戦中、戦闘機の整備士をしており、終戦後は地元（所沢）の米軍基地で働いていた。
母親は戦中、シンガポール（昭南島）やペナン島で従軍看護婦をしており、戦後は地元の国立病院で働いていた。
その時代には珍しく“一人っ子”で“共働き”の家庭で育ったPANTAは、代々和菓子屋を営んでいた祖母のもとで幼少期を過ごしたという。

「おばばがいなかったら、いわゆる鍵っ子みたいなものになっていたかもしれない。親父は朝早く出かけて夕方に帰宅する。おふくろの方は看護婦だから勤務時間が不規則で夜勤とかもある生活だった。おふくろ抜きの食卓っていうのも多かった。おふくろの病院勤めは俺が大学を卒業するくらいまで続いたよ。」

一人っ子だったとはいえ、彼は近所の友達とつるんで“昭和の子供”らしい遊びをしていた。

「カウボーイごっこ、チャンバラごっこ、かくれんぼ、馬跳び、三角ベース野球、丹下左膳のマネ…毎日暗くなるまで遊んでいたよ。」

共働きで、あまりそばにいてあげられない負い目もあったのか…両親は彼に対してそう厳しい方ではなかったが、父親はある意味“古い考え”の人間だった。
彼は中学生になった頃、親に内緒でエレキベースをローンで購入し、父親に殴られたという。

「内緒っていっても保証人がいるから、すぐにバレちゃうわけね。親父はローンとか借金っていうのが大嫌いで、烈火のごとく怒って俺をぶっ飛ばした。」

彼には3つ歳上の成績優秀な従兄弟がいて、その影響もあって中学受験をして私立の海城中学（新宿区大久保にある中高一貫制男子校）に通うこととなる。
※高校の時に錦城高校（小平市にある男女共学の私立校）に転校

「両親は教育熱心だった。子供は大学に行って一流企業に入って…そんな思いが強かった。親戚が役所関係や公務員などお堅い職業ばっかりだったから余計にそういう考えになってたんだと思う。」

最初の音楽体験は、父親と仲が良かったメリック軍曹（アメリカ兵）が吹いてくれたハーモニカのメロディーだった。

「メリックは日本語がとてもうまくて、ある日俺を基地内にある小高い丘の上に連れて行ってくれたんだ。そこで二人で寝そべって、彼がポケットからハーモニカを取り出して吹いてくれたんだ。とても印象的なメロディーだった。後から親父に聞いたんだけど“My Old Kentucky Home（ケンタッキーの我が家）”という曲だった。それが俺にとって最初の洋楽体験だった。」

「ビートルズを聴いたのは中学2年の時だった。曲は“I Want To Hold Your Hand（抱きしめたい）”だったかな。正直エルヴィスの方がワイルドで好きだった。ビートルズはナヨナヨして聴こえたんだ。当時の俺は男っぽいものが好きで、いくら周りが騒いでいてもビートルズには拒絶反応があった。」

「同じビートルズでも“Twist And Shout”や“Roll Over Beethoven”を聴いた時にはぶっ飛んだよ！これだよ！これ！って思った。ビートルズのイメージがガラッと変わったんだ。」

彼は中学3年の頃からギターを持って自作の曲を作るようになる。
次第に音楽にのめり込むようになり…ついに初めてのコンサート体験をする。
アメリカから来日したサーフバンド、ザ・サファリーズのコンサートを新宿厚生年金会館に観に行って、意外な一曲に刺激を受けたという。

「前座がスパイダースだったから、正確には俺の記念すべきコンサートの初体験はスパイダースだ（笑）二階席の一番前で観てたんだけどね。その後サファリーズが出てきて、なんといってもカッコ良かったは“You Really Got Me”だった。当時まだキンクスを知らなかったから、彼らの曲だと思ってたんだ。とにかくその曲との出会いが俺のコンサート初体験の思い出となった。」