「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the NEXT

田中茉裕

2015.01.12

Pocket
LINEで送る

いつの間に いくつもの喜びを感じてきたんだろう
今日の風 戸惑いながら 僕らまた大人になる
いつの間に いくつもの優しさに 出会ってきたんだろう
今日の風 抱きしめたいよ 僕らまた 歩いてく
(「夕焼け色の風」より)


透き通るように清らかでいながら、ひりついた緊張感を感じさせるハイトーンの歌声。感情をむき出しにしなくとも、鋭く突き刺さってくる言葉。シンプルでありつつ、何にも染まらない強さを持ったメロディ──1993年生まれ、現在21歳の田中茉裕(たなかまひろ)が作る音楽を聴いて感じる儚さや脆さ、そしてノーブルな美しさは何だろう。

2010年に開催されたオーディションでその才能を見出され、2012年3月にはインディーレーベルからミニ・アルバム『小さなリンジー』を発表。自ら演奏するピアノと歌だけで制作されたこの作品は衝撃を与え、美術家の奈良美智や俳優の佐野史郎など各方面からの絶賛を集めた。その後、体調を崩し活動を休止を余儀なくされたが、当初の予定よりも1年ほど時間を置いて、このセカンド・アルバム『I’m Here』を2014年11月に発表した。

プロデューサーに鈴木慶一を迎えて制作された本作は、曲によっては弦楽器やエレクトロニカ、あるいはギターやドラムによるバンド・スタイルが彩りを加えるものの、太い幹となっているのは田中茉裕の歌とピアノ。鈴木慶一による抑制の効いたプロデュースは、(本人にとっては無自覚かもしれないが)彼女の音楽の背景に流れているであろうクラシックやアイリッシュ音楽のエッセンスを引き出し、エヴァーグリーンな親しみやすさを与えている。

そんなシンプルなアレンジだからこそ一層際立つのが、彼女の歌に込められた感情だ。キラキラした幸せもどん底のような苦しみも飾り立てずに綴っていく歌は、少女と大人の女性の間を行ったり来たりしながら、日々生まれる想いをひとつひとつ噛み締めるようにメロディに乗せていく。時に声がかすれたり、音程が不安定になったりするのも厭わずに〈いま、ここにいる自分〉を歌う田中茉裕の魅力は、たとえば本編4曲目の「ゆるして」と、ボーナストラックに収録された同曲のデモ・ヴァージョンを聴き比べてみると、より深く理解できるかもしれない。

ああしたいなら こうしたいなら くれてやる
ああ醜いよ 恥ずかしいよ
何もわかっちゃいない 誰もわかっちゃいない
馬鹿にされるのを立って 待っていればいい

本当は大好きなのに 本当は愛してるのに
許されるよりずっと前から あなたが嫌い
(「ゆるして」より)



田中茉裕『I'm Here』

田中茉裕
『I’m Here』

(Great Hunting/UMEA)


田中茉裕 official website
http://tanakamahiro.jp/


田中茉裕「夕焼け色の風」 MV
田中茉裕「ゆるして(demo)」 Lyric Movie
田中茉裕「5月の太陽」 Lyric Movie
田中茉裕「小さなリンジー」 MV

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the NEXT]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ