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シェルタリング・スカイ〜ポール・ボウルズとベルトルッチ監督が描く砂漠のロードムービー

2023.12.19

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『シェルタリング・スカイ』(The Sheltering Sky/1990)


『シェルタリング・スカイ』(The Sheltering Sky/1990)は、壮大なロードムービーであると同時に、砂漠に魅せられた男と女の愛の物語だった。

原作はポール・ボウルズの同名小説。1910年生まれのボウルズは1931年に初めてモロッコのタンジールを訪れ、45年に再訪。2年後にニューヨークからこの地に妻のジェーンと共に自発的亡命し、自分たちをモデルにした最初の長編である本作を書き上げた。作品はたちまちベストセラーとなり、「アメリカ戦後文学を代表する名作」として高い評価を得ていく。

ボウルズの小説の映画化権を手にしたのは、アクション映画監督のロバート・アルドリッチ。しかし、彼は自ら撮ることもなく、また誰にも譲ることなく、1983年にこの世を去る。息子が権利を譲り受けたものの、誰も相応しい人はいない。そんな時、『暗殺の森』『ラスト・タンゴ・イン・パリ』のベルナルド・ベルトルッチと出逢って意気投合。遂にカメラが回り始めた。

監督、製作(ジェレミー・トーマス)、撮影(ヴィットリオ・ストラーロ)、音楽(坂本龍一)と、前作『ラスト・エンペラー』のスタッフが再び集結。物語の核となる夫婦役には、デブラ・ウィンガーとジョン・マルコヴィッチ。そして当時すでにリビング・レジェンド的存在だったポール・ボウルズ(1999年に88歳で死去)も出演した。

79歳の偉大な作家に、ああしろこうしろと指示を出せると思うかい? ただ、苦悩の思い出とともに登場人物を見つめてくれと頼んだよ。(ベルナルド・ベルトルッチ)

タイトルの意味かい? 空は明るいと思われているが実は黒い。空の向こうへ行けば、それが分かる。空を信じてはいけない。人類を闇から護っているというわけだ。空の向こうは闇だから。(ポール・ボウルズ)


(以下ストーリー・結末含む)
物語の舞台は1947年。ニューヨークを離れたポートとキット・モレスビー夫妻が、友人のジャック・タナーを伴って客船で北アフリカに到着し、モロッコのタンジールのグランド・ホテルに宿泊するところから始まる。

自分たちは着いてすぐに帰ることばかり考えるツーリスト(観光客)ではなく、自由気ままなトラベラー(旅人)なのだというポートとキット。だが結婚12年目の二人はホテルの寝室も別々にするほど倦怠期にあり、かつての激しい愛も夢も熱情も色褪せていた。サハラ砂漠で関係修復につながる何か新しい価値観が見つかると考え、北アフリカまでやって来たのだ。それに作曲家のポートと劇作家のキットにとって、西洋文明や消費社会はすでに疲れ果てたもので、異文化への憧景もあった。二人はスコットとゼルダ・フィッツジェラルドのように映る。

しかし旅の過程で、ポートは土地の女と快楽を求め、キットはタナーとベッドを共にしたりと、二人の関係は良くなるどころか、ますます険悪な状態になっていく。そのうちタナーは別の土地へと旅立ち、二人きりになった夫妻は愛し合おうと努めながらも、何の答えも得られぬまま喪失感に覆われる。

ここの空は不思議だ。僕はよく、空を見ると、それが何かしら堅固なものでできていて、僕らをその背後にあるものから護ってくれているように感じるんだよ。


サハラ砂漠の広がる土地でポートはキットにそう言う。ここは時間や歴史とは関係のない場所。吹き荒れる風によって姿を変え続ける空間。真実を見つけに来たはずが、いつの間にか迷宮へ入り込んでしまった。タナーが自分たちを探していると分かるとさらに内陸へと進むが、ポートは次第にチフスに冒され衰弱していく。最後を予期して夫のために必死に看病するキット。そして魔術的な音楽ジャジューカが激しくなる中、ポートは息を引き取った。

直後、キットは何かに取り憑かれたかのように、夫の魂を引きずるかのように、砂漠を彷徨い始める。アラビア人に連れ去られて妻の一人となり、タナーが助けに来ると、キットはもう別人になっていた。発狂していたのである。

自分の人生を左右したと思えるほどの大切な思い出を、人は何回心に浮かべるのか。4、5回思い出すのがせいぜいだ。あと何回満月を見られるのか。だが、人は無限の機会があると思っている。(ポール・ボウルズ)


予告編


『シェルタリング・スカイ』

『シェルタリング・スカイ』






*日本公開時チラシ

*参考・引用/『シェルタリング・スカイ』パンフレット、『たのしく読めるアメリカ文学案内』(ミネルヴァ書房)
*このコラムは2018年8月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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