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レコードを聴いて学ぶことができたロックンロールの魂が受け継がれている「ハングリー・ハート」

2024.09.22

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ブルース・スプリングスティーンの「ハングリー・ハート」は、1980年10月21日に、2枚組の大作となったアルバム『The River』からシングル・カットされた。

イントロが始まった瞬間から聴こえてくるオールディーズのような懐かしさと、思わず身体が動き出すフィル・スペクター的なサウンドは、80年代のロックンロール誕生を予感させるものだった。

覚えやすいフレーズのコーラス・パートもあったので、ブルースにとっては初めてのシングル・ヒットになった。しかし、「ハングリー・ハート」は反抗する若者の歌ではなかった。

歌の主人公は、ボルチモアに妻と子を残して家を出てきてしまった男や、バーで出会った女性と恋に落ちても、それがすぐに終わるのを知っている男だ。

誰だって飢えた心を持っている
誰だって満たされない心を抱えてる


彼らはもう大人であるにも関わらず、「誰もが満たされない心を抱えてる」と繰り返し、「誰もが休む場所が必要だ」「誰も一人でなんかいたくない」と歌わずにはいられない。

ロックンロールにおける基本中の基本ともいうべき要素が詰まっていた「ハングリー・ハート」は、屈託を抱えた男の歌にも関わらず、コーラスパートを一緒に歌いたくなる歌でもあった。

やがてコンサートではバンドの演奏によるイントロに続いて、歌いだしのヴァースとコーラスをブルースが歌わず、観客がみんなで思い思いに歌うことが定番になっていく。


ブルース・スプリングスティーンは誰かに音楽を習ったわけではなく、ラジオやテレビから届けられる新しい歌を通じて、そして何よりもレコードを聴くことでロックンロールを自分のものにしていった。

最初に買ったレコードは、エルヴィス・プレスリーの「監獄ロック」だったという。

偉大なレコードや、偉大な歌はみんなこう言ってるんだと思う。「さぁ、これを受け取って世の中に自分の場所を見つけるんだ。これで何かをやれ、何だっていい。どんなに大きくても、小さくてもかまわない、自分が立つべき場所を見つけるんだ」って。レコードにそういうことができるなんて、とてもすばらしいことだよ。


ブルースはエルヴィスのおかげで、「おれはどこへ向かっているんだろう?」と思うようになった。そしてエディ・コクランやボブ・ディランによって、より深く考えるようにもなっていったとも語っている。

ロイ・オービソンが1987年にロックの殿堂入りしたとき、ブルースは「ボブ・ディランのような歌詞と、フィル・スペクターのようなサウンドでレコードを作り、ロイ・オービソンのように歌いたかった」という趣旨の発言をした。

たしかに「ハングリー・ハート」におけるブルース歌い方には、ロイ・オービソンのエッセンスが感じられる。そしてサウンドからはフィル・スペクターだけでなく、どの歌も好きだったというビーチ・ボーイズの雰囲気も漂ってくる。

俺の好みはよく変わるんだよ。エルヴィスのファンであるときもあるし、バディ・ホリーのファンであるときもある。俺が好きになる人はしょっちゅうかわる。言ってみれば、俺はロックンロールという概念のファンなのかもしれない。ロックンロールのフィーリングのファンだね。

どこにも出口が見つからないように思えた我が家に、ロックンロールは届いた。そのころは道のどんづまりにいるような気分で、好きなこともなく、やりたいこともなく、ただごろごろして、寝るかなにかするような毎日だった。そんなとき、ロックンロールが我が家へ届いたんだ――いつの間にかそうっと入ってきて、なんでもできるような気分がする世界を広げて見せてくれた。


その世界に入っていくための扉をさらに開け放ってくれたのが、1964年にイギリスからやって来たビートルズだったという。続いてやって来たローリング・ストーンズに夢中になったのは、初期の3、4作のアルバムを聴いていた60年代半ばの頃だった。

ロックンロールにはいろんなものが含まれているが、とにかく教師であるロックンロールに忠実であるべきだと思うね。ああいう概念、ああいうフィーリングに。ロックンロールこそ音楽の本物の魂だ。


自分から行動するための契機を与えてくれたという意味で、ロックンロールはブルースにとって、いつ何時でも尊敬すべき教師そのものだった。

〈参考文献および引用元〉
デイヴ・マーシュ (著),‎ 小林 宏明 (翻訳)「明日なき暴走―ブルース・スプリングスティーン・ストーリー」
ジョン ダフィ (著), 沼崎 敦子 (翻訳)「ブルース・スプリングスティーン―イン・ヒズ・オウン・ワーズ」

ブルース・スプリングスティーン『ザ・リバー』
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