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ロード・オブ・ドッグタウン〜小さな町から起こったスケボー少年たちの革命

2023.06.02

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『ロード・オブ・ドッグタウン』(LORDS OF DOGTOWN/2005)


サーフィンやスノーボードと並んでXスポーツ(エクストリーム)の代名詞であるスケートボード。日本でも1987年にサーファーやハードコアパンクス両サイドからのアプローチで“スラッシャー”のムーヴメントが起こり、原宿のホコ天や渋谷の代々木公園などでは、ネルシャツやロング&ショートスリーブシャツの重ね着ファッションの彼らを数多く見かけることができた。スーサイダル・テンデンシーズのようなスケーター・ロックが鳴り響いていたことを思い出す。2020年には東京オリンピックの正式種目にも決定した。

音楽やファッションとの結び付きも深いこのストリートアイテムを描いた最高にクールな映画がある。その名は『ロード・オブ・ドッグタウン』(LORDS OF DOGTOWN/2005)。斬新なスタイルで1970年代のアメリカ西海岸発カルチャーを築いた若者たちの物語。クレジットに“BASED ON THE TRUE STORY”とあるように、実話の映画化だ。

(以下ストーリー・結末含む)
1975年、カリフォルニア州ベニスビーチ。すべてはドッグタウンという小さな町で始まった。まだ10代半ばのジェイ、トニー、ステイシー、シドたちは、いつものようにサーフィンやスケートボードに明け暮れている。

兄貴分的存在のスキップ(ヒース・レジャー)のサーフショップ『ゼファー』が彼らのホーム(たまり場)だ。ジェイは貧しい家庭環境の中でいつも苛立っている。気が荒いトニーは厳しい父親の監視に窮屈さを感じ、真面目で冷静なステイシーはスキップに認めてもらえないでいる。シドは優しい性格で病気がち。

ある日、彼らをダシにスケートチームで一儲けを企むスキップ。揃いのTシャツや特製のボードをジェイたちに提供して“Z-BOYS”を結成。大会に送り込む。ブラック・サバスの「Iron Man」をBGMにセットするスキップ。彼らの闘争心むき出しのストリートな滑りは瞬く間に注目を浴びることになり、記録係のクレッグがカメラにそんな姿を収め続ける。計画通りにスキップの店は繁盛する中、ジェイたちは水不足のご時世で空になったプールで新しい滑りを試みる。しかしそれは留守中の豪邸に勝手に忍び込むという、悪さのやりたい放題だった。

大会を荒らしていくうちに、彼らにも転機が訪れる。雑誌の表紙になったことがきっかけで、彼らを引き抜く連中が現れたのだ。「スキップがどれだけ儲けているか知ってるか? 奴から見返りはないだろ? だから俺が君をスターにしてやる」と言われて、トニーが別のチームへ移籍。彼女をジェイに寝取られたステイシーも心は外に向いていた。スキップは自分から離れて行く彼らを見守ることしかできず、酒に溺れ始める。

トニーは今やロックスターのような風貌で、高級車を乗り回しながら女の子たちに囲まれる日々を送っている。ステイシーはアイドル扱いで『チャーリーズ・エンジェル』に出演するような人気者になった。しかしジェイだけは地元ドッグタウンに残り、昔のようにストリートに生きていた。世界選手権で顔を合わせる3人。ジェイの富や名声に屈しない“強く成長するイノセンス”が鼓動しているような滑りに何かを感じるトニーとステイシー。一方で、落ちぶれて仲間からも見放されたスキップは孤独だった。

仲間同士でどうして競い合う必要があるのだろう? 負傷したトニーは休暇を取るうちに気付き始める。チームは自分を利用しているだけだ。そんな時、大会を控えたステイシーはジェイからシドが重い病気と闘っていて余命があることを知らされる。

シドの家の空のプール“ドッグボウル”に集まる3人。車椅子のシドをプールに運んで、いつまでもその周囲をスケートボードで滑り続ける。嬉しそうなシドは言う。「警察を気にせずプールで滑るのは初めてだな」……

なお、実話ではシドの父親は何ヶ月もプールを空にしたまま、息子が亡くなるまで好きなだけ彼らに滑らせたという。この映画の撮影前、ジェイ・アダムス、トニー・アルヴァ、ステイシー・ペラルタそれぞれを演じたエミール・ハーシュ、ヴィクター・ラセック、ジョン・ロビンソンはスケボー経験が一切なし。特訓を重ねて映画では本当に滑っているというから驚きだ。現場には当時の本物の“Z-BOYS”たちも立ち合った。脚本はステイシーが担当している。

この映画のサウンドトラックが素晴らしいことは言うまでもないが、中でも落ちぶれたスキップが心機一転して雇われの身から再出発するシーンが心に残る。ロッド・スチュワートの「Maggie May」がラジオから流れる中、彼は懸命にサーフボードを作り続ける。落ちぶれて最初からやり直すことは敗北でも恥じることでもなく、“本物”になろうとする人に必要な“心の風景”として響いている。このスキップ役を演じたヒース・レジャーは、惜しくも2008年に28歳の若さで亡くなった。

再出発するスキップ(ヒース・レジャー)の姿も、この映画のもう一つの物語だった。

水不足で空になった高級住宅街のプールに忍び込んで滑るシーン。夏の音だった。

予告編

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『ロード・オブ・ドッグタウン』






*日本公開時のチラシ
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*このコラムは2014年9月に公開されたものを更新しました。
*参考/『ロード・オブ・ドッグタウン』DVD特典映像

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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