「プロテストソングの先駆者」「アメリカンのフォークソングの父」とも称されるウディ・ガスリー。
彼の歌う歌には、圧迫に耐え、それに抗して立ち上がろうとする意志がある。その歌に耳を傾ける人にとっては、もっと大事なものがそこにある。それを“アメリカ魂”と呼んでもいいだろう。(ジョン・スタインベック)
ウディ・ガスリーは、ボブ・ディランに多大な影響を与えたシンガー・ソングライターで、プロテストソング(政治的抗議メッセージを含む歌の総称)の源流となった人物である。1950年代以降に出現したアメリカのフォークシンガーたちは、ほとんど例外なくウディに影響されている。
プロテストソングのルーツを辿ると、彼を起点として、ボブ・ディランやブルース・スプリングスティーンと、太い動脈のような系譜が繋がる。
そんなウディ・ガスリーも、生まれつき反抗的な人間だったわけではない。幼い頃は、むしろ気の弱い従順な子供だった。
父親と離婚した母親がハンチントン病と云う難病にかかり、自分の感情をコントロールできなかったために、息子のウディに理不尽な暴力を加えた。そんな母親に対して、愛情と恐れの入り混じった感情で接せざるをえなかった。
いずれにせよヴティは、幸せとは言えない子供として人生をスタートしたが、だからといって、ひねくれたり反抗的であったことはなかった。
ウディをプロテストに結びつけたものは、内的な性格と云うよりは、外的な事情だった。17歳の時、アメリカは大恐慌に突入した。青年期は暗い時代環境の中で過ぎていった。多感なウディは不安に覆われながら生きることになった。
1935年、23歳の時に彼が暮らしていたオクラホマが、「ダストボウル」と呼ばれる強烈な砂嵐に見舞われた。オクラホマじゅうの農園を砂で覆い尽くした。続いてイナゴの大群が襲ってきて、わずかに残った農作物をすべて食い荒らしていった。
周辺で暮らしていた人々は、家や農場を売り払って、新しい天地を求めてカリフォルニアへと移住していった。だがそんな彼らを待っていたのは、非常に過酷な運命だった。ジョン・スタインベックが『怒りの葡萄』の中で描いたのとまったく同じ運命が、ウディの周囲に襲い掛かってきたのだった。
ウディは、カリフォルニアに旅立つ人々に随伴して、故郷のオクラホマを捨てた。だが別に、金や生活に困っていたわけではなかった。故郷を捨てて新天地を目指す人々を見ていると、自分もまたそうしなければ、申し訳ないような衝動に駆られただけだった。
オクラホマを出発した時、ウディにはすでに妻子がいた。しかし、その妻子の生活を本気になって心配した形跡はないという。捨てられた妻子は、自分たちの力だけで生きていかなければならなかった。
そうした時代の中、ウディは、民衆に受け継がれてきた伝統的なアメリカン・フォークソング(バラッド)のメロディーにオリジナル歌詞をのせて歌い、また自ら作詞作曲をし始める。
当時のアメリカの音楽は、まだ生演奏が主体だった時代。ラジオとレコードはあるものの、貧しい人々には手が出ず、町のバンドや弾き語りの歌手が身近な存在だった。
ウディはコンサートなどで演奏することにより、不況下で厳しい生活を送る不遇で貧しい人々の想いを肌身に感じ、その心情を代弁するスタイルで、音楽の旅を続けた。
「わが祖国(This land is your land)」は、そんな時代に作られた歌だったが、国家への讃歌ではない。それは、そこに生きる人々への励ましと自由への讃歌だった。
また、ウディの歌はそれほど政治性が高いものではなかった。時には理不尽な体制への批判や抵抗を歌ったが、本質的にはすべて歴史で語られることもない人々やコミュニティへの共感から作られたものだった。
古くはスコットランドやアイルランドのケルト文化に由来するバラッドとは、叙情と叙事を併せ持っている歌だ。ウディは、その中にメッセージ性のある歌詞をもたらした。その創作スタイルは、ボブ・ディランを筆頭に、多くのフォーク歌手に受け継がれ、政治性を強めて大きな流れを作ることとなる。
ギター1本抱えて、街から街へ巡業して歌うウディ・ガスリーにとって、公民権運動が高まる中で「プロテストソングの先駆者」として担ぎ上げられたことは、違和感があったことだろう。
なぜなら、彼にとって国家や政府は、敵対する対象ではなかったからだ。その歌を聴けば、ルーズベルト大統領やニューディール政策を肯定したことが分かる。ウディにとってのアメリカは一つのコミュニティであり、まさに「この国は君の国、この国は私の国」と考えていたのだ。
参考文献:『この国はきみの国―アメリカの吟遊詩人 ウディ・ガスリー』(かもがわ出版)
我が祖国 ~ ジ・アッシュ・レコーディングズ Vol.1
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