デビューから32年目にして、初めてNHK紅白歌合戦に出演が決まった2017年12月、エレファントカシマシの宮本浩次は、記者会見で初出場への抱負をこう語った。
「メンバーみんなの夢でした。紅白歌合戦は日本の音楽の最高峰。精いっぱい歌いたい」
1981年に結成されたバンドのエレファントカシマシは、東京都北区の赤羽台にある中学校の同級生たちで結成された。ヴォーカルの宮本浩次が加入したのは中学3年の時で、6人編成で洋楽のディープ・パープルやレインボー、日本のロックではRCサクセションのコピーから始まったという。
1986年に現在のメンバーがそろってCBSソニーの「SDオーディション」に入賞し、メジャーからデビューするチャンスをつかんだ。そしてエピック・ソニーからアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』を1988年に出してデビュー、そこからはプロとしても30年のキャリアを積んできたベテランである。
しかし、ソニー時代のエレカシはきわめて個性的であり、ということはあまり一般的ではないということでもあった。
強力な存在感を放つカリスマ的なヴォーカルの宮本浩次と、どこかに線の細さを感じさせるほかのメンバーたちのギャップのせいなのか、彼らのライブには異様ともいえる緊張感が漂っていた。
それはエンターテイメントとは対極のもので、ときには無様さをさらけ出すこともいとわず、エレカシはありのままの姿で勝負し続けた。
やがて作品と活動の両方で異端的な存在と見なされるようになり、彼らは孤高のバンドとして音楽シーンの中心から外れていく。
売り上げ不振でソニーとの契約が危うくなった1994年、ボ・ガンボスのDr.kyOnや近藤等則といったゲスト・ミュージシャンを迎え、さらにオーケストラやオーバーダビングなどをも取り入れた意欲作、『東京の空』を発表した。
しかし、それを最後にエピック・ソニーとの契約が終了すると、彼らとともにあった所属事務所「双啓舎」もなくなってしまった。
その後、新たにFAITH A&R(現・フェイスミュージックエンタテインメント)と契約し、シングル「悲しみの果て/四月の風」を1996年4月に発表してから、エレカシは広く支持を得るようになっていく。
そして反商業主義的であったエピック・ソニー時代には考えられなかったタイアップや、メンバーたちのメディアへの登場によって売り上げを伸ばし、活動の基盤を整えたところで満を持したかのように、1997年7月にシングル「今宵の月のように」で初めてヒット曲をものにしたのだ。
「今宵の月のように」のプロデュースを引き受けたのは佐久間正英である。四人囃子やプラスチックスのベーシストにしても知られる、今はなき名プロデューサーは当時のことをこのように語っていた。
エレカシもちょうど、転機になる時期でした。エレカシも大変でしたよ、いろんな意味で。宮本くんはああいう人なんで、逆に大変ではないんです。ただバンドと歌い手の関係として、歌があそこまで強力で、それに対してその頃はまだバンドがちょっと弱かった。なおかつ、中学生ぐらいからずっと仲良しのメンバーで、仲良しなくせにひとことも口をきかないという関係も独特で(笑)。僕がその中に入っていかなきゃならないのが、難しいところでしたね。みんながもっと軽く口をきける感じだといいんだけど、宮本くん経由でないと誰も口をきかないんですよ。
そうしたバンドを精神的な面でもまとめながら、宮本浩次の書いてきた個性的な楽曲を、佐久間は見事なヒット曲に仕上げていった。
インタビューのなかで「特に印象的な作品は?」という質問に対して、バンドの魅力と本質をよくわかっている佐久間は、宮本浩次の歌の凄さについてこんな風に語っていた。
曲で言うと、「今宵の月のように」はすごいなと思いました。宮本浩次は歌が本当にすごいですね。
その場で聴いていられる自分が幸せというか、感動します。
面白いのは、歌詞を間違えるケースがすごく多い。そうすると、そこで止めて、また歌いだすという録り方で、全部通して歌うということがあんまりない。力量的には、もちろん歌えるんですよ。でもなぜか歌詞を間違えるのは、彼にとって言葉というのは、実はどうでもいいんですね。
彼自身がそう言ってたんだけど、「言葉なんかどうでもいい、言葉を歌ってるわけじゃない」と。だから歌ってる時に、どんどんエモーショナルになってくると、言葉から意識が外れちゃう。で、間違えるたびにだんだんイライラがつのってくるわけですよ(笑)。それがさらにテンションを高めて、もっとすごい歌になっていく。
僕が経験したロックバンドの中で、テクニカルな意味も含めて、宮本浩次の歌のうまさはダントツですね。本当にうまい。ピッチとかリズムがうんぬんということではなく、たとえば「北島三郎の歌ってすごいよね」というような意味合いにおいて。
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