TAP the DAY

沢田研二の「君をのせて」から生まれた伝説のテレビドラマ『哀しきチェイサー』

2015.11.05

Pocket
LINEで送る

沢田研二の「君をのせて」という歌から、テレビドラマ『哀しきチェイサー』が生まれたのは1978年の晩秋のことだ。

エディット・ピアフの「愛の讃歌」の日本語訳などで知られる作詞家・岩谷時子が、ザ・ピーナッツの「恋のバカンス」や「ウナ・セラ・ディ東京」などでコンビを組んだ作曲家・宮川泰とともに書き上げた「君をのせて」は、ザ・タイガースからPYGを経てソロになった沢田研二の初作品である。

しかし1971年11月に発売されたものの、シングル盤は期待したほどには世の中に受け入れられなかった。

君をのせて ジャケット
だがその歌を聴いてすっかり惚れ込んでしまったのが、テレビドラマ「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」などの演出家、TBSの久世光彦だった。

目を瞑(つむ)ると満点の星の世界が浮かび、《銀河鉄道》が遠ざかっていく光景が見えた。
やわらかな揺篭(ゆりかご)に揺られながら、どこか《永遠の場所》へ運ばれていくようだった。


歌を聴きこんでいるうちに、久世は「君をのせての君は、男だ」と確信する
そして歌の言葉が”キラキラ光っている”ことに感銘を受けて、いつかはこれをテーマに使った沢田研二のドラマを撮ろうと考えた。

「君をのせて」 作詞:岩谷時子 作曲:宮川泰

風に向かいながら 革の靴を履いて
肩と肩をぶつけながら 遠い道を歩く

僕の地図は破れ くれる人もいない
だから僕ら肩を抱いて 二人だけで歩く

君のこころ塞ぐ時には 粋な粋な歌をうたい
あ~あ 君をのせて夜の海をわたる舟になろう

ひとの言葉 夢のむなしさ どうせどうせ知ったときには
あ~あ 君をのせて夜の海をわたる舟になろう


久世が1975年に沢田研二の主演で作った連続ドラマ『悪魔のようなあいつ』は、男が男を愛するという設定の異色作で、一部に熱狂的なファンを持つカルト的作品となった。

そして「君をのせて」に出会ってから8年後、久世は『哀しきチェイサー』の脚本を中島梓に依頼した。
テレビの収録スタジオで起こった女子高生の刺殺事件を描いた青春ミステリーの「ぼくらの時代」で、その年に第24回江戸川乱歩賞を受賞した中島梓は25歳、才気あふれる新人の女流作家だった。

こうして無頼な私立探偵に内田裕也、彼とコンビを組むちょっと知能の遅れた美少年が沢田研二、最後には回想シーンで男同士の道行きを演じられる物語が実現した。

創刊されたばかりだった少年愛や同性愛を語る専門誌「JUN」(後の「JUNE」)に、中島梓は「悪徳の栄え 『哀しきチェイサー始末記』」という撮影現場のレポートを書き残している。

 この脚本は「哀しきチェイサー」と題して、内田裕也君と沢田研二君がいかがわしい男の友情を演じ、さいごには二人とも惨殺(脚本家によって)されてしまう。
 こんなシーンを生身の沢田研二君が演じるとなったら、これを見逃しては首くくりものである。TVでなくナマを見られるのも書いた人間の特権である。
 本読み室でもすでに、裕也さんが照れに照れたり、ADのお兄さんが沢田君のセリフを代役やらされて、「どこにも行っちゃイヤだよ。そばにいてね。」などとイヤーな顔しながら読んでいたり、いろいろと腹の皮のよじれるようなことがあった。


哀しきチェイサー 記事

11月5日に人気絶頂だったスターの沢田研二が殺されるシーンの撮影があるというので、新聞や週刊の記者やカメラマンがもぐりこんで、TBSのスタジオは普段とは違う空気が流れていた。

内田裕也は黒のブカブカのつなぎ、沢田研二は紫のジャンパーにジーンズ、グレーのマフラーを巻いて登場。
回想シーンで使われた男同士の道行きは、「君をのせて」のレコードを流しながら撮影された。

立ち会っていた中島梓はあまりのいかがわしさに、すっかり照れてしまったと告白している。 

風に吹かれながら、仲良く一個のリンゴをかじりっこして、すでにもうぼくはなかば目をおおって指のあいだからこっそりのぞく心境。
うっ、いかがわしい。こ、こんなワイセツなものを 自分が書いてしまったのか。


そして沢田研二が三人の男に襲われて路地に追いつめられ、ドラムカンの上にひき倒されて内田裕也の名を絶叫しながらナイフを突き刺さされるシーンの稽古が始まった。

「助けてぇ!痛ぇよお!」と絶叫するクライマックス・シーンでは、取材陣のカメラのフラッシュが一斉にたかれる。
遅れて助けに来た内田裕也が「お前、大丈夫か、もういいんだ、オレがここにいるぞ、大丈夫だよ、こわくないよ…」と、膝に抱き起こす。
演出の久世が「サービス、サービス。三十秒だけだよ」と大声を上げる。
再び、一勢にフラッシュがたかれる。

その日のことを久世は後に、こう回想していた。

刑事物のドラマとしては妙なものだったが、私は《陶酔》した。
木枯らしの草原を、この二人が一本の洋モクを回し喫(の)みしながら縺れていく回想シーンを撮っていて、私は胸が熱くなり、ちょっと泣いたような記憶がある。


中島梓は翌年に『悪魔のようなあいつ』にインスパイアされた小説「真夜中の天使」を発表し、さらにはSF作家の栗本薫としてヒロイック・ファンタジー小説「グイン・サーガ」』などで人気を得ていく。

「君をのせて」もまた発表から30年を過ぎたころから名曲だという評価が高まって、いまでは多くのシンガーにうたわれてスタンダードになっている。


沢田研二「君をのせて」


マルシア「君をのせて」




栗本薫『真夜中の天使1』(文春文庫)
文藝春秋

Pocket
LINEで送る

スポンサーリンク

関連アーティスト

関連するコラム

[TAP the DAY]の最新コラム

このコラムへの感想・コメントを書く

Pagetop ↑