TAP the NEWS

物語のような歌

2014.05.25

Pocket
LINEで送る

物語に出てきたレシピ給食に 姶良市で本と料理楽しむ読書活動(南日本新聞より)

「ローマ人の物語」初の電子化 Kindleストアで先行販売(IT mediaニュースより)

『ONE PIECE』をもっと楽しめる豆知識を一挙公開(ワンピース ドットコムより)


♪「ニーナ」/矢野絢子



矢野絢子というシンガーソングライターをご存知だろうか?
今日は、彼女が約10年前に紡いだ名曲「ニーナ」をご紹介します。
2004年、メジャーレーベルからリリースされた彼女の1stアルバム『ナイルの一滴』に収録されたこの歌は、12分間にもおよぶ大作である。
この「物語のような歌」を、是非一度最後までじっくりと聴いてみて欲しい。
こんな素晴らしい作品を筆で“解説する”なんて野暮。
皆さんの心に浮かぶ“情景”、沸き上がる“感情”、それがすべて。
今回TAP the POPでご紹介させていただくにあたって、特別に!ご本人から貴重なコメント(曲の誕生秘話)をいただきました。

YANOJUN
ニーナが出来たのは2003年のこと。
その年私はアルバイトを全てやめ、音楽だけでお金を稼ぐ方法を考えていた。
エレキピアノを所有していたのだがどうしても生ピアノが欲しかったのだ。
それも、アルバイトして稼いだお金ではなく音楽だけで稼いだお金で。
デビューする前の年で、その時には自分が翌年メジャーデビューするなど思いも
していなかった。

ただ、自分のできる音楽をひたすら真剣に必死にやることしか方法は思いつかず、
とりあえず高知の自分たちのライヴハウス「歌小屋の2階」で毎週ライヴをし
て、毎週新曲を発表しよう、そう誓った。

というわけでその年は寝ても覚めてもずっと曲をつくること、詩を書くことだけ
を考えて暮らした。
目に映るもの聴こえるもの感じること全てを歌にしてやろうという勢いである。
最終的に一年間で41曲の歌がうまれ、今ではこの経験は私にとって名実ともに
貴重な財産となっている。
ニーナはそんな中で出来た一曲である。

毎週毎週曲を作って発表するわけだからネタが尽きてゆく。
周りのミュージシャン仲間に「何か曲を作るネタをちょうだい」とせがみ、
師匠であり歌小屋ミュージシャン仲間である池マサト氏から
「曲の長さとかを考えずに、ひとつの物語を小説のように書いてみたら」と言わ
れた。
そこで私は、何かひとつのものの始まりから終わりまでの人生を歌にしようと
思った。
それも人よりもうんと長生きするもの。そして人と密接に関係するもの・・・と
考えて椅子に思い立った。

手作業で出来る作品はそれが歌であっても物であっても心が宿る。
作り手の心だったり、またその物を大切に使用してきたものの心。
古い建物や家屋に入ると、柱や天井、床、またはそこにある調度品などが経てき
た歴史、そこにまつわる人々のドラマを想像してしまうのは私だけではないはずだ。
椅子、という人と共に存在するひとつの作品が時を超えて、旅する歌になった。

自宅のエレキピアノに向かって、ひとつひとつの時代や人々のドラマを図形にし
て構成を考えて言葉を選びながら、ライヴの当日に朝までかかって仕上げた記憶が生々しく残っている。
後にも先にもこんなに長い歌はもう書かないのではないだろうかと思う。
なんと12分もあるのだから。

ニーナという名のこの椅子は、時を超えて所有者たち皆に愛された。
それは最初にこの椅子を作った椅子職人のおじいさんが最大の愛をこめて作りあ
げたからだと私は思う。
そして“名前”というものは、すべての人が最初にいただく愛の言葉だと感じる。


558065758_1376563182

その椅子は木で出来た丈夫な椅子
こげ茶色のクッション木彫り花模様肘掛
背もたれの両端には小さな赤い石
それはそれは美しい木の椅子だった

その椅子を作ったのは椅子職人の爺さん
曲がった腰慣れた手つき鋭い目
出来上がった椅子があんまり美しかったので
死んだ妻の名前をこっそり入れたのさ

店先に置いた椅子はすぐに客の目に留まり
やってくる客についつい爺さん「売り物じゃない」という
何人めかの客が来てしばらく話し
爺さんはついに言った「売りましょう」と

椅子は大きな屋敷の大きな広間に置かれた
毎夜止まぬ音楽と夢のようなダンスの日々
主人はいつも椅子の前に座り椅子には
いつも美しいドレスの女が腰掛けた

時は砂のように流れ屋敷は古びてゆく
主人が椅子だけを眺める日々が続いた
美しいあのドレスの女は現れなかった
音楽はやみ主人は立ち上がった
ある朝椅子はたくさんの家具とトラックに乗った

椅子は海を渡る旅をした
揺れる揺れる船の底荒い波の音
夜更けにかすかに聞こえるピアノのワルツ
少しだけくたびれた椅子を乗せて

旅を終えた椅子を一人暮らしの老婦人の元へ
いつもきちんとした身なりパンを上手に焼く
飼っている猫は灰色の老猫で
椅子の上に丸まって婦人の話をよく聞いた

話はもっぱら夫の話
もう十年もあちこち旅をしてる
愛しい人の手紙を少女のように猫に聞かせる

婦人の足が悪くなり日がなベッドで横になる
傍らにはいつも椅子と灰色猫
何度も同じ手紙を大事に大事に読み返す

よく晴れた昼下がり眠る婦人の枕元
一人の男が現れた
古びた椅子に座り古びた婦人の手を握り
そして眠る婦人にそっと口付けしたのさ
猫はナァナァないていた

古道具屋の暗い部屋でも椅子は人の目を引いた
めがね主人は丁寧に椅子の傷を取りがたを直した
クッションはここで赤い茶色に張り替えられた
よく笑う若い夫婦は一目で椅子に目をつけた

椅子は始めたばかりの小さなカフェの窓辺
若い夫婦はよく働き椅子はいつもピカピカ
その年妻は子供を宿し
夫婦は抱き合って喜んだ

何度も壊れ直された足はちび肘掛は擦り切れたが
小さな赤い石はきちんと二つ光ってる
今ではもう五歳になった娘はやんちゃな悪戯っ子
椅子の下海底ごっこ思わず目を輝かす

「何か彫ってあるよ母さん
 ねぇ、素敵だわ
 きっとこの椅子の名前だわ
 わたしと同じ名前なのね」

ニーナ!ニーナ!
娘は椅子をそう呼んだ

その晩椅子はいつもの窓辺
夜空は水のように澄み切っていた
誰にも聞こえない小さな音が
椅子から溢れ始めた

カフェの常連 
大きなお尻 
夫婦の笑い声
けんかの声 
めがね主人の咳払い
埃っぽい古道具屋 
老婦人のお話 
猫の尻尾
現れた男の涙 
揺れる船の底 
波の音
ピアノのワルツ 
大広間の音楽 
絹のドレス
男の眼差し 
ショーウィンドゥの前行き交う人々
木屑の匂い 
力強い掌 
しわがれた声

「ニーナ」

次の日娘が目を覚ますと
椅子は足が壊れて窓辺に転がっていた
夫婦は娘の髪を撫でた
「もうお疲れ様と言ってあげよう」

その椅子を作ったのは椅子職人の爺さん
曲がった腰慣れた手つき鋭い目
出来上がった椅子があんまり美しかったので
死んだ妻の名前をこっそり入れたのさ


trusty_old_chair_by_stoppelbart-d4d7seo
人は、この歌を聴きながら“物語”の世界に浸る。
その歌詞とメロディーから、様々な“情景”を心に思い浮かべる。
登場人物や場面を想像する。
小さく微笑んだり、共感したり、温かな気持ちになったり。
そして、一筋の涙を流したり。
それが、どんな時代だったのか?
彼らにどんな出会いや別れがあったのか?
主人公がどんな旅を経験したのか?
そして、どんな結末を迎えたのか?
人は、この歌を聴き終えたとき…まるで一篇の映画を観たような気持ちになる。



さて、今週は「物語のような歌」「長い長い歌詞の曲」を紹介して下さい♪
皆様からのコメント欄への投稿をお待ちしております。
洋楽・邦楽・性別・世代を超えて“音楽と出逢う”歓びを、皆さんで分かち合いませんか?
「私ならこの一曲!」
YouTube動画のURLをコメント欄に貼付けて、歌詞の内容や選曲理由と共に「一曲」聴かせて下さい。
投稿方法がわからない方は、直接メッセージでご返信(メール投稿)下さい。
曲名/アーティスト名と選曲理由だけの投稿でもかまいません。
info@tapthepop.net
コメント欄の方へ代理投稿させていただきます。
宜しくお願い致します。



【矢野絢子 YANO JUNKO】
1979年高知県生まれ。現在も高知在住。1997年より地元の「ライヴハウスメキシ
コシティ」にてライヴ活動を始める。1999年、「ライヴハ ウス歌小屋の2階」を
ミュージシャン仲間と共に立ち上げレギュラーミュージシャンとしてライヴ活動
を続ける。2001年より2010年まで毎年行 われた不眠不休伝説のイベント「歌小
屋総出演50時間ライヴ」に全10回出場。
その間2003年第1回軽井沢ラヴソングアウォードに出場し、グランプリ獲得、
2004年メジャーデビュー。2004年度ゴールドディスク新人 賞受賞。
2006年に移転オープンした「劇場 歌小屋の2階」を拠点に、全国各地で好き勝手
にライヴ活動を行う。
2012年旅の途中で小粋な軽音楽バンド「ブルームーンカルテット」と出会い、翌
2013年6月、彼らに全面コラボレーションしてもらい、9枚目 のフルアルバム
『Blue』リリース。

「うまれた場所でしんでゆく、そんな草木のような、当たり前に寄り添えるうた
を残したい。」


↓ライブスケジュール・ディスコグラフィ等はこちら
<オフィシャルサイト 蒼い鳥>
http://www.yanojunko.net
<ブログ 生態系観察所>
http://ameblo.jp/junko-yano/

dj.gtdxlpcj.1200x1200-75

矢野絢子『ナイルの一滴』

(2004/ユニバーサルシグマ)


o0800080012511525386

矢野絢子『Blue』

(2013/十二月舎)


矢野絢子9thアルバム『Blue』
矢野絢子9枚目のフルアルバムとなる今作は、矢野が旅の途中で出会ったバンド「ブルームーンカルテット」とのコラボレーションアルバム。更に矢野ライヴでもお馴染みのヴァイオリン嶋崎史香、ドラム平井ペタシ陽一を加え、全編通して7人編成での演奏という、矢野絢子ソロでは初の試み。彼らの豊かな音色とグルーヴにピアノ弾き語りの枠を越えて、自由に踊る歌声は必聴。 これはもはやソウルミュージック!!

Pocket
LINEで送る

スポンサーリンク

関連アーティスト

関連するコラム

[TAP the NEWS]の最新コラム

このコラムへの感想・コメントを書く

Pagetop ↑