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卒業〜「結婚式の最中に花嫁を奪う映画」からの脱却

2019.12.20

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『卒業』(The Graduate/1967)を初めて観たのは、1980年代後半頃。レンタルビデオで借りてきたのが最初だったと思う。高校時代にデザイナーの叔父から勧められた『イージー・ライダー』(1969)で衝撃を受けていたにも関わらず、何せ生まれる前の映画であり、観終わってもどこか古臭い感覚を拭い切れなかったのを覚えている。要するに「結婚式の最中に花嫁を奪う映画」「サイモン&ガーファンクルの有名な主題歌が流れる映画」程度の感想しか持てなかったのだ。

しかし大人になるにつれ、それなりの経験を積み、傍らで映画の時代背景や歴史を深掘りしていくうちに、『卒業』の捉え方も次第に変わっていった。そこには目標を失った金持ち青年の喪失感があり、ユダヤ系とWASP系のダブル・ヴィジョンがあり、1967年のアメリカの若者社会のスピリットがあることを知った。こうしてアメリカン・ニューシネマの草分けを、自分自身の中のイノセンスが減少していく過程と比例するかのように、徐々に理解できるようになった。

今回改めて映画を観たところ、特典映像の中で、原作小説を書いたチャールズ・ウェッブがこのストーリーの真髄を語っているところを見つけた。

子供の頃は誰もが純粋さを持っている。だが本人の意思とは関係のない出逢いや経験を通じて、その純粋さは失われる。誰にとっても“ロビンソン夫人”がいて、そういう人と出逢って気づくことになる。人は見た目では分からない。そういった経験が誰にでもあると思う。


『卒業』における印象的なシーンは数多い。例えば、花嫁奪還後のバスの後部座席。ベンジャミン(ダスティン・ホフマン)とエレイン(キャサリン・ロス)から笑顔が消え、不安な表情に囚われていくラストシーンは、観る者がよほど鈍感でなければ今でもかなりのインパクトがある。

あるいは生みの親ウェッブが言うように、この映画で重要な役割を果たすロビンソン夫人(アン・バンクロフト)が絡むシーン。父親のビジネスパートナーの妻である彼女はすでに夫を愛しておらず、東部のエリート大学を卒業したばかりの将来有望の青年、ベンジャミンに愛の空虚の穴埋めをさせる。それまで純粋だったベンジャミンは、この情事を通じて汚れの経験と自己嫌悪を繰り返す。自分の心には同年代の娘エレインがいるのに、その母親とホテルでのセックスに人知れず耽る日々。

このどうしようもないループ感が、南カリフォルニアの太陽と空の下で展開されていく。サイモン&ガーファンクルの「ミセス・ロビンソン」「スカボロー・フェア/詠唱」、そして「サウンド・オブ・サイレンス」が映画のサウンドトラックとして使用された。

今回、『卒業』の前半に大きな影響を受けたであろう映画を見つけた。それは『レス・ザン・ゼロ』(1989年日本公開)だ。小説版とは違う内容であったにも関わらず、こちらは80年代の若者たちの心情を見事に捉えた衝撃の一本だった。

両者には共通点が多い。まずオープニングクレジットのシーン。飛行機の中で虚ろな瞳を浮かべるベンジャミン。次のカットは空港内を移動する姿で、そこにサイモン&ガーファンクルの音楽が流れる。対して『レス・ザン・ゼロ』のクレイも、東部の大学から飛行機でロサンゼルスの実家に戻ってくる設定。聞こえてくるのはバングルズの「冬の散歩道」(サイモン&ガーファンクルのカバー)だ。

他にもプール付きの豪邸、そこで物思いに耽るところ、心ここに在らずのパーティ、オープンカーでの深夜ドライブ(アルファロメオとコルベットの相違あり)など、いくつもハッとさせられるシーンがあった。思わぬ発見だったが、60年代の青春も80年代の青春も今では遠い昔。まもなく2020年代が幕開ける。これからの10代に『卒業』は響くのか。

予告編


『卒業』

『卒業』


*日本公開時チラシ

*参考・引用/『卒業』パンフレット

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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