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リアリティ・バイツ〜“厳しい現実”と直面したX世代と忘れ得ぬ名曲「Stay」

2024.02.17

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『リアリティ・バイツ』(REALITY BITES/1994)


1991年に刊行された『ジェネレーションX〜加速された文化のための物語たち』は、1961年生まれのカナダ人作家ダグラス・クープランドによる小説で、欧米のポップカルチャーで話題となって日本でも翌年に翻訳されたので、手に取った人もいると思う。

「ジェネレーションX」とは1961年〜1981年生まれの世代を定義しているが、クープランドの著書は60年代生まれのポスト・ベビー・ブーマーたちを描いた青春ロードノベルだった。

アメリカと日本の社会背景や出来事は多少違うので世代意識は完全に一致しないが、日本ではバブル期に青春を送った60年代半ば〜後半生まれの「新人類」や、崩壊後に就職難と直面した70年代前半〜半ば生まれの「団塊ジュニア」あたりを「ジェネレーションX」と呼ぶ傾向があった。

少し前に活躍したニュー・ロスト・ジェネレーション世代の作家(ブレット・イーストン・エリスやジェイ・マキナニーなど)がスタイリッシュな消費/享楽文化の中で無気力・無関心・無感動のように生きる若者たちを描いていたのに対し、クープランドは孤独と不安と喪失感の中にありながらも、既存のシステム社会から抜け出して新しい価値を求めようとする若者たちに光をあてようとした。

そういう意味で日本で「ジェネレーションX」を再定義するなら、「90年代に青春期を送った世代」と言い換えていいのかもしれない。

今の若者は、たかがBMWを買うために週80時間も働いたりしません。60年代に反体制やカルチャー革命を謳った人々は今や無心に毎朝ジョギングする始末。では、現在の私たちはどう生きるべきか。受け継いだ重荷をどうすべきか。卒業生の皆さん、答えはいたって簡単です。その答えは、答えは……分かりません(I Don’t Know)


大学の卒業式で総代スピーチを行うリレイナ(ウィノナ・ライダー)の姿から始まる『リアリティ・バイツ』(REALITY BITES/1994)は、学生から社会人へと変換しようとする「ジェネレーションX」の若者たちを描いた作品。俳優としても有名なベン・スティラーの初監督作品で、この映画にも旧世代の象徴として出演している。ウィノナ・ライダーは日本でも大人気だった。

物語は、TV局の契約社員になったリレイナのほかに、売れる見込みのないバンド活動を続けるトロイ(イーサン・ホーク)、ゲイであることを告白したサミー、GAPで働きながら何人もの男とセックスして真実の愛を模索するヴィッキーの4人の共同生活を軸に綴られていく。リレイナは同世代のドキュメンタリーを制作することを思いつき、自分たちの姿をありのままカメラに収めることに。

ある日、そんな彼女に興味を抱くMTVのプロデューサー、マイケル(ベン・スティラー)と男女関係になる。しかし、トロイは何かにつけてリレイナに噛み付く。彼は彼女を愛していた。TV局を解雇されたリレイナは引き蘢りの日々に陥るが、そんな時、ドキュメンタリー番組が認められてお披露目されるとマイケルから連絡が入る。トロイとリレイナの恋の行方は?

“厳しい現実”といったタイトル通り、行動の先にはシステム社会の障害があってなかなかうまくいかない。それでもリレイナは信じること、信じる相手を選ぶのだった。

サウンドトラックも秀逸で、マイケルがリレイナと愛を交わすシーンではピーター・フランプトンの「Baby,I Love Your Way」、4人がガソリンスタンドの有線で踊り出すナックの「My Sharona」、そして何と言ってもリサ・ローブの歌う「Stay(I Missed You)」は全米1位に輝いた。この曲を青春の想い出にしている人も多いのでは?


映画の予告編


90年代の大名曲「Stay」

『リアリティ・バイツ』

『リアリティ・バイツ』


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*日本公開時チラシ
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*このコラムは2014年12月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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