『いまを生きる』(Dead Poets Society/1989)
「学校教育」の意義が問われ始めてから、もうどれくらいの歳月が経つだろう。進学するための勉強を数値で測ることは、受験システムを強大化させ、必然的に学習塾のニーズを高めた。そしてイジメ問題、親の口出し、経済格差の広がり……。
学校を取り巻く環境は、今も深刻な領域から抜け出せずにいる。「なぜ受験するのか?」という問いに、自分の言葉で明確に答えられる子供など果たしているのだろうか。ほんの一握りでは意味がないのだ。
世界に標準を合わせ、英語教育やIT教育を推進する動きも出てきてはいる。だがそれ以上に必要なのは「生きていく力」「他人を思いやる力」であり、「夢を実現する力」「課題を解決する力」であるべきではないか。
例えば、お金のリテラシー教育やイノベーション教育を導入した方が、日本の未来を担う子供たちは、もっと笑顔で自信を持って一歩目を踏み出すことができるようになると思う。
『いまを生きる』(Dead Poets Society/1989)は、まさにそんな“人間のあり方”を伝えてくれる力強い映画。30年以上前の作品だが、今もその輝きは色褪せてはいない。
主演は惜しくも亡くなった名優ロビン・ウィリアムズ。そして500人ものオーディションから選ばれたという7人の生徒たち。その中にはイーサン・ホークもいた。監督はピーター・ウィアー。脚本はトム・シュルマンのオリジナルで、第62回アカデミー賞で脚本賞を受賞。
(以下ストーリー・結末含む)
1959年、ニューイングランド州バーモント。森と湖に囲まれ、渡り鳥の大群が舞うほど美しい自然に恵まれたこの地に、全米屈指の名門校ウェルトン・アカデミーがある。全寮制の男子校で創立100年を誇るこの学校は、「伝統・名誉・規律・美徳」の教育理念のもと、生徒たちに名門大学へ進学することを課し、管理の行き届いた環境で親たちから絶大な信頼を得ている。
今年も新学期がやってきた。同校のOBだというキーティング(ロビン・ウィリアムズ)が赴任してくる。教育理念をもじり、「模倣・醜悪・退廃・排泄」の地獄の学院と自虐する17歳の少年たちにとって、新しい教師は注目の対象だ。しかし、キーティングは型破りの言動と授業を展開して彼らを驚かせる。
教育方針は「今を生きろ」。偉大な詩人たちを数値で測ろうとする教科書の序文を破り捨てることを命じ、机の上に立っていつもと違う新しい視野を持てと説く。
生徒一人ひとりの可能性や情熱、自己表現を尊重するキーティングにとって、教育とは独立心、自立心を養うこと。勉強や学問はそのためにあるのであって、名門大学に進学するためではない。そして詩の朗読を勧めて、「先入観に捉われずに自分の感性を信じ、自分自身の声を見つけろ」と微笑む。
私は放つ。荒々し野蛮な雄叫びを。広い世界のその頂上で。
──ホイットマン
森へ行ったのは、思慮深く生き、人生の真髄を吸収するため。
生活でないものは拒み、死ぬ時に悔いのないように生きるため。
──ソロー
行こう友よ。新しい世界を探し求めに。
夕日の果てに船を進めよう。
──テニスン
風変わりな授業に最初は戸惑いを隠せなかった生徒たちも、血が通った教育に心を開かされ、キーティングへの関心と信頼が高まっていく。
中でも厳格な父親に人生を支配されているニール、自分の殻に閉じ篭っている内気なトッド(イーサン・ホーク)、公立高校の女の子に恋したノックスら7人の生徒たちは、「死せる詩人の会」(Dead Poets Society)を復活させ、深夜に寮を抜け出しては洞窟に集まり、自分の夢や悩みを語るようになる。まさに「今を生きる」ことの素晴らしさに目覚めていく。
そんな矢先、悲劇が起こる。医者になることよりも演劇の道へ進むことを生きがいにしていたニールが、一方的な父親の言い分が原因で自ら命を絶ってしまう。名門校はすぐさま“調査”に乗り出し、生徒たちに無理矢理同意のサインをさせた上で、自殺の罪をすべてキーティングに被せようとするのだった……。
ラストシーンが心震える。音楽的にはキーティングが自分の部屋で、ベートーヴェンの『皇帝』第2楽章を聴き流しているシーンが印象的だった。
今の学校教育に必要なのは、キーティングのような“まともな”教師。そしてそんな人財を排除しようとする既得権者とシステムの改革だ。
予告編
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*日本公開時チラシ
*参考・引用/『いまを生きる』パンフレット
*このコラムは2018年11月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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