TAP the SCENE

オー・ブラザー!〜ブルーズやカントリーが育まれた南部の音風景をとらえた傑作

2017.03.22

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2枚目スター俳優として知られていたジョージ・クルーニーは当時、新しい映画の出演企画が持ち込まれると、それがコーエン兄弟のものだと知って脚本も読まずに役に飛びついた。読んでみると笑い転げてしまった。

ヒステリックなまでにおかしな話だし、とても知的だ。「俺はなんてラッキーなんだ」と思ったよ


また、コーエン兄弟の常連俳優ジョン・タトゥーロ。

あの兄弟の企画なら僕は何でも引き受けるよ。主演だろうがワンシーンだけだろうがね


ティム・ブレイク・ネルソンは最初、出演依頼はなくただ脚本を渡されてアドバイスが欲しいと言われただけだった。そして自分に役が付いていることを知らされるとびっくりした。

僕みたいな無名の俳優にこんな大きな役をやらせるなんて!!


『バートン・フィンク』『ファーゴ』などで熱い注目を集めていたジョエル&イーサン・コーエン兄弟。北部生まれの彼らは南部のことなど詳しくは知らなかったそうだが、長いロケハンの旅を重ねながら心に風景を描いていった。そしてミシシッピ州ジャクソンヴィル周辺で理想の絵が出来上がった。

『オー・ブラザー!』(O Brother, Where Art Thou?/2000)は、1930年代のアメリカ南部を舞台にしたロードムービー。原案は古代ギリシャの吟遊詩人ホメロスの『オデュッセイア』で、最古の叙事詩と言われている冒険物語。

物語中、二人の実在した人物が登場する。一人は銀行強盗で有名なジョージ・ネルソン。土地を地主から借りていたり、借金の担保にしていた農民たちは、銀行にすべてを取られて路頭に迷っていた。スタインベックの小説『怒りの葡萄』や映画『俺たちに明日はない』などで描かれた大不況の30年代。銀行強盗はヒーローのように“活躍”した。

もう一人は、十字路でヒッチハイクするトミー・ジョンソン。「悪魔に魂を売ったんだ」と言ってギター片手に車に乗り込む姿に、思わずニヤッとした音楽ファンは少なくない。あのロバート・ジョンソンで有名になったブルーズの伝説は、実はこのトミー・ジョンソンが最初なのだ。(詳しいことはこちらで。ロバート・ジョンソンの“クロスロード伝説”や“悪魔との契約説”はなぜ広まったのか?)

1930年代、アメリカ南部ミシシッピ州。強制労働を強いられている囚人たち。そんな中、綿花畑を鎖で繋がれた足で逃げて来る囚人服を着たままの3人組の男たちがいる。ポマードなくして生きられない口達者なエヴェレット(ジョージ・クルーニー)、文句ばかり言っているピート(ジョン・タトゥーロ)、トロい性格のデルマー(ティム・ブレイク・ネルソン)だ。貨物列車に乗り損ねた彼らは、手動モロッコを操る盲目の黒人老人に運命を予言される。

お前たちは宝物を求め、遠くて長い冒険をするだろう。数限りない障害に遭う。だが最後には宝が見つかるだろう。しかし、それはお前たちが求めた宝物とは違うのだ。

脱走したのには理由がある。エヴェレットが昔強盗して隠しておいた120万ドルを手にするためだ。その場所は早くしなければダム建設によって川底に沈んでしまう。ピートの従兄弟の家に逃げ込んだ3人は、新しい服を手に入れて目的地までの旅を始めることに。しかし従兄弟の密告で、それはいきなり逃亡の旅へと変わる。エヴェレットが髪に塗ったポマードの臭いに反応する保安官が連れた地獄の猟犬。

十字路でヒッチハイクするギター片手の黒人青年トミー・ジョンソンを拾うと、「歌えば金になる」ことを聞かされて、地元のラジオ局へ出向く。トミーを加えて「ズブ濡れボーイズ」と名乗ってレコードを吹き込み。また、銀行強盗のジョージ・ネルソンの“仕事”に付き合う羽目にも。

しかし小金を持った途端、彼らには災難続き。エヴェレットの本当の目的は、妻(ホリー・ハンター)と娘たちを偽善の婚約者から取り戻すためだったことも判明。120万ドルの話は嘘だったと告白する。そこに州知事選挙の対立候補たちが絡んできたり、おまけにトミーがKKKに捕まってしまう。一体、彼らのこの先の運命はどうなるのか?……

クライマックスのライヴシーン。取っ払いのギャラが欲しくてたまたま吹き込んだレコードが、まさかの大ヒットをしていることを知らない彼らの反応が面白い。T・ボーン・バーネットがプロデュースしたサウンドトラックは全米1位を獲得。800万枚以上をセールスしたというから驚きだ。

観ていて楽しめつつ、どこか郷愁を呼ぶ映像やストーリーは、2000年を迎えたアメリカで大ヒット。ジャズ、ゴスペル、ブルーズ、カントリーといった20世紀大衆音楽のルーツ・ミュージックが育まれた南部の音風景や体臭を感じる傑作となった。


1930年代、アメリカ南部の録音シーン。


ライヴシーン

『オー・ブラザー!』

『オー・ブラザー!』


*日本公開時チラシ
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参考・引用/『オー・ブラザー!』パンフレット

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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