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マルコムX〜刑務所暮らしの中で“真の知識”に開眼した黒人解放運動家

2018.04.18

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スパイク・リー監督による『マルコムX』(Malcolm X/1992)は、1960年代の黒人解放運動の指導者/革命家として余りにも有名な男の生涯を描いた3時間21分のドラマ。マルコムを演じるのはデンゼル・ワシントン(上の写真は本物のマルコム)。

「初めてマルコムXの自伝を読んだ中学生の時から、いつかきっと映画化したいと考え続けていた」

原作となったのは、暗殺される2年前から執筆され始めたという『マルコムX自伝』(『ルーツ』で知られるアレックス・ヘイリーとマルコムXの共著)。ヘイリーは映画の完成を楽しみにしていたそうだが、残念ながら公開前に他界した。

この『マルコムX自伝』は出版されて以降、様々な映画人が企画に挑戦するものの一向に実現には至らず。そのうちハリウッドでは「映画化されない最も重要な作品」とまで言われるようになった。

そんな中、カナダの監督が決定寸前まで事が運んでいたらしいが、自分しかしないと確信していたスパイクが「白人監督にマルコムの複雑な人生を正当に描けるはずがない」と主張して映画化権を奪取。彼にとってはそれくらいかけがえのない英雄だったし、何よりもお決まりの黒人像を描かれてはたまらなかったのだろう。

新聞や雑誌の記事、スピーチ、テレビ映像から、家族や友人、活動仲間へのインタビュー、FBI記録まで丹念に調べ上げ、自らのギャラまで制作費につぎ込む情熱ぶり。一方で“X”のロゴが入ったグッズを販売して「宣伝に利用している」「中流育ちの黒人」と批判を受けたりもした。だがそんなことでスパイクは負けなかった。

予算オーバーで資金難に陥り、頼みのワーナー・ブラザーズ社から「余分なカネは一切出さない」と宣告された時は、「白人監督にならどんどんカネを出すくせに」と思ったらしいが、ビル・コスビー、オプラ・ウィンフリー、マジック・ジョンソン、マイケル・ジョーダン、プリンス、トレイシー・チャップマンらが援助金を出してくれたおかげで、危機を乗り越えることができた(エンドクレジットで彼らが登場する)。

マルコムXを語る時、必ず同時代の公民権運動(人種差別撤廃運動 )を先導したキング牧師が引き合いに出される。しかし、この二人の考え方は対照的だった。「白人社会との統合」を目指すキング牧師に対し、イライジャ・ムハンマドを始祖とするネイション・オブ・イスラム(以下NOI)に傾倒していたマルコムは「白人社会からの分離」を説いた。白人社会に溶け込んだところで経済的困窮や搾取は目に見えているし、独立した黒人社会を作らなければいつまでも「鎖に繋がれていないだけの奴隷同然」という考えからだった。

スパイク・リーの『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)のエンディングでは、二人の言葉が並べられていた。

人種差別に暴力で闘うのは愚かなことである。暴力は破滅に至るらせん状の下り階段で、「目には目を」の思想はすべてを盲目に導く。暴力は敵の理解を求めず、敵を辱める。暴力は愛ではなく憎しみを糧とし、対話ではなく独白しか存在しない社会を生む。そして暴力は自らを滅ぼし、生き残った者の心には憎しみを、暴力を振るった者に残虐性を植えつける。
──マーチン・ルーサー・キング


アメリカには善人も多いが、悪人も多い。権力を手中に握って我々の進む道を阻んでいるのは悪い奴らで、この状況を打破するために闘うのは我々の権利である。私は暴力を擁護する者ではないが、自己防衛のための暴力を否定する者でもない。自己防衛のための暴力は「暴力」ではなく、「知性」と呼ぶべきである。
──マルコムX


NOI時代のマルコムXは、決して理由なき暴力行為を推進した過激派ではない。あくまで「自己防衛」を提唱した。度重なる白人の暴力から家族や仲間を守るためにはやむを得ないのだと。マルコムは「無条件非暴力」を掲げるキング牧師を弱腰とけなしたが、白人メディアにとってどちらが脅威だったかは言うまでもない。

スパイクはこの点で鋭い指摘をする。「歴史上、持てる者が持たざる者に権力を無傷で譲り渡した例があるだろうか。なぜ“黒人だけが非暴力”を求められるのか。祈ってさえいれば、南アフリカの政権が黒人たちに譲られるとでも思っているのか」

ここで映画のストーリーに沿って、マルコムのエピソードを紹介してみよう。

1925年5月、ネブラスカ州オマハで信念を通す牧師の父と白人の混血の母との間に生まれたマルコム・リトル。一家は「反抗的な黒人」としてKKKに追放され、ミシガン州ランシングに移住。差別主義者に家を焼かれてしまう。さらに父が襲われ、電車の線路に横たえられ死亡。明らかな殺人だったにも関わらず、警察は自殺と認定。保険金もおりずに生活は困窮する。

純真無垢なマルコム少年は成績優秀で、将来は弁護士を目指していた。だがある日、白人の学校に通っていたマルコムは「どうしたら弁護士になれるのか」と質問した白人の教師からこう告げられるのだ。「キミは黒人だから弁護士になれないよ。黒人はもっと黒人らしい仕事、例えば清掃業なんかを目指すべきだ」と。この言葉に深く傷ついた少年は、以来白人に対する見方が変わった。

靴磨きや列車のボーイとして働いていたマルコムは、10代後半になるとハーレムへ。やがて地元の黒人ギャングと関わるようになり、賭博、麻薬、売春、強盗などに手を染める。1946年、21歳の時に窃盗で逮捕。初犯は懲役2年程度が妥当の中、10年の刑を宣告される。

刑務所の中で、NOIの幹部である男から“黒人のアイデンティティ”を教えられるマルコム(辞書の「BLACK」と「WHITE」の意味を読み上げるシーンは見どころの一つ)。それを機に図書館で猛勉強し、読み書きの能力を向上させて文献に触れるうちに、アフリカの輝かしい歴史や文化、アメリカの奴隷制度、白人の数知れない暴虐を知っていく。こうしてハスラー用語しか知らなかったマルコムは黒人についての真の知識に開眼する。

1952年。知性と教養を刑務所で身につけたマルコムは仮釈放され、NOIに入信。この時「マルコムX」という名前を始祖イライジャ・ムハンマドから授かる。翌年にはNY寺院の牧師に任命され、ハーレムの街頭で信者の獲得に疾走。婦人部の講師で看護学生だったベティと結婚した。

マルコムXの名が世間に知れ渡るにつれ、彼の影響力も増していった。60年代に入ると、実質的なナンバー2として伝導の最先端で活動。1万人以上の大集会を続ける。しかし、1963年に信用していたムハンマドに女性スキャンダル発覚。病状も悪化していたこともあって、マルコムによる教団乗っ取りを噂される。

そしてこの頃、JFKが暗殺。この件で一切コメントしてはならないというNOIの指示に反し、マルコムが政治的失言。マスコミから叩かれて炎上。失望したマルコムはNOIを脱会する。

1964年。ムスリム・モスク・インクを設立し、OAAU(アフロ・アメリカン統一機構)を組織。アフリカやアラブのメッカを巡礼していた時に、肌の色をまったく気にしない正統のイスラム教に心打たれて改宗。白人を敵対視する躍動家から、多人種の共存の道を探ること、人類愛がアメリカを救うことを誓った。

マルコムの新たな運動はNOIには脅威に映ったのかもしれない。マルコムの家庭には脅迫電話が相次ぐようになり、周囲には「私は白人の差別主義者か、白人が雇った黒人の手によって殺される」と自らの運命を予告していたという。

そして1965年2月21日。ハーレムのオードゥボン・ボールルームで講演中、10数発の銃弾を浴びて射殺される。享年39。この事件でムハンメドの組織の一員が逮捕された。マルコムの死後、アメリカには「ブラックパワー」「ブラック・イズ・ビューティフル」のムーヴメントが広がった。

映画のラストでは南アフリカの反アパルトヘイト活動家、ネルソン・マンデラが登場する。サウンドトラックにはジャンプ/R&B/ソウル/ジャズといった、マルコムが生きた時代の“本物のブラック・ミュージック”が収録されている。

ビッグ・ジョー・ターナー「Roll ‘Em Pete」
ライオネル・ハンプトン「Flying Home」
インク・スポッツ「My Prayer」
ビリー・ホリデイ「Big Stuff」
アースキン・ホーキンス 「Don’t Cry Baby」
ルイ・ジョーダン 「Beans And Cornbread」
エラ・フィッツジェラルド 「Azure」
ジョン・コルトレーン「Alabama」
レイ・チャールズ「That Lucky Old Sun Just Rolls Around Heaven」
デューク・エリントン「Arabesque Cookie」
ジュニア・ウォーカー「Shotgun」
アレサ・フランクリン「Someday We’ll All Be Free」
サム・クック「A Change Is Gonna Come」

予告編


『マルコムX』

『マルコムX』


*日本公開時チラシ

*参考・引用/『マルコムX』パンフレット
*マルコムX公式サイト

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