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さらば愛しき女よ〜チャンドラーの美学を受け継いだ一級のハードボイルド映画

2018.08.29

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レイモンド・チャンドラー。登場人物の心理を主に台詞や行動で描写するハードボイルド文体に、知性や洒落たセンスを取り入れた書き手。ハリウッドの空気やロサンゼルスの風景、そこに生きる人間模様といったリアリズムを貫き、世界で最も有名な私立探偵フィリップ・マーロウの生みの親。

その味わい深い世界は、今も7つの長編でじっくり楽しめる──『大いなる眠り』(1939)、『さらば愛しき女よ』(1940)、『高い窓』(1942)、『湖中の女』(1943)、『かわいい女』(1949)、『長いお別れ』(1953)、『プレイバック』(1958)──ページを1枚ずつめくっていく至福感。ページが残りわずかになると、親しい友人や恋人と別れなければならないような寂しさにも包まれる。そんな気持ちにさせてくれるのがチャンドラー作品であり、マーロウの物語だ。

1888年、アメリカのシカゴで生まれたチャンドラー。8才の時に両親が離婚し、母の故郷ロンドンへ移住する。青年時代にはフランスやドイツでも学び、文筆修行を積んだ。23歳の時にアメリカへ戻ると、サンフランシスコを経てロサンゼルスでの生活に落ち着く。手当たり次第に職を転々としながら、第一次世界大戦が勃発すると空軍に志願した。

除隊後は景気上昇の波に乗って石油会社の役員となり、35歳の時に18歳年上のシシーと結婚。狂乱の20年代が終わり、世界的大不況に覆われた30年代。失職したチャンドラーはいよいよ創作活動を開始。1933年、パルプ・マガジン「ブラック・マスク」に探偵小説第1作目となる中編「脅迫者は撃たない」が掲載された。

以来、フィリップ・マーロウの原型となる中編を次々とパルプ・マガジンで発表。そして1939年にはマーロウを語り手とした『大いなる眠り』で長編デビューを果たす。40年代にはハリウッドで脚本の仕事にも携わりつつ(中でもビリー・ワイルダーと共同で書いた『深夜の告白』はフィルム・ノワール不朽の名作)、マーロウ・シリーズに取り組み続けた。

しかし、1954年暮れに妻シシーが死去すると酒に深く溺れ始め、1959年3月に71歳で気管支炎に襲われてサンディエゴで永眠。約25年の創作活動で、長編7本・中短編24本・数本のエッセイ・未完の『プードル・スプリングス物語』を残した。40年代から映画化もされ、ディック・パウエル、ハンフリー・ボガート(『三つ数えろ』)、ロバート・モンゴメリー、ジョージ・モンゴメリー、フィリップ・ケイリー、ジェームズ・ガーナー(『かわいい女』)、エリオット・グールド(『ロング・グッドバイ』)ら7名がフィリップ・マーロウを演じてきた。

『さらば愛しき女よ』(Farewell,My Lovely/1975)は、8代目マーロウにロバート・ミッチャムを起用。『長いお別れ』と並ぶチャンドラーの最高傑作だけに映画の出来が心配されたが、夜の世界の美学と奇妙な友情が全編に流れる一級のハードボイルド・ムービーに仕上がった。なお、シャーロット・ランプリングは本作でハリウッドデビュー。『ロッキー』で夢を掴む直前のシルヴェスター・スタローンが脇役で出演しているのも発見できる。

ロサンゼルス、1941年。家出娘の捜索を終えたマーロウに、大男マロイが近寄ってくる。「俺の可愛いヴェルマを見つけてくれ」。話を聞くと、マロイは8年前にヴェルマの企てで銀行強盗をして捕まり、長い刑期を終えて出てきたばかりだという。この数年間ずっと音沙汰のないヴェルマの行方を突き止めたいのだ。マーロウの人探しが始まるが、別の依頼では美女が現れてマーロウを誘惑する。やがて人が一人、二人と死んでいく。ヴェルマは見つかるのか?……

予告編


『さらば愛しき女よ』

『さらば愛しき女よ』


*日本公開時チラシ

*参考・引用/『さらば愛しき女よ』(清水俊二訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)、パンフレット

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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