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ナインハーフ〜ミッキー・ロークとキム・ベイシンガーが演じた“9週間半”の男女関係

2019.10.16

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日本の都市で暮らす紳士淑女たちが札束とかくれんぼしたり、消費という名のパーティ・デイズに明け暮れたバブル時代。男と女はスタイリッシュな出逢いやゲーム感覚の恋愛を気にかけるようになり、それに紐づくファッションやレストラン、住空間と健康管理、音楽やアートといった情報にやたらと詳しくなっていた。彼ら彼女らが一番恐れたこと。それは流行に遅れてしまうことだった。

『ナインハーフ』(NINE 1/2 WEEKS/1986)はそんな時代の幕開けに日本で公開された。この映画で描かれたのは、まさに享楽的で虚飾的な男女関係における重要なコミュニケーション=セックス。都市生活を謳歌する怖い者知らずの若い世代が見逃すはずがない。中でも、氷を身体の上で滑らす「ナインハーフごっこ」が話題になった。ハリウッド映画が日本のポップカルチャーに及ぼす影響がまだ強かった頃の話だ。

監督は『フォクシー・レディ』(1980)や『フラッシュダンス』(1983)で女性の目覚めや成長を描いたヒットメーカー、エイドリアン・ライン。様々な企画が持ちかけられる中、次に選んだのがこの『ナインハーフ』だった。

原作はNY在住の若い女性エグゼクティヴ、エリザベス・マクニールの『ある愛の記憶~飼われた猫のように』。本当は中年の男が書いたとされるエロティックな小説だ。監督は舞台を当時のNYに置き換え、ヤッピーとキャリアウーマンを登場させた。

原作では男が女を征服、支配するという歴史的なパターンのメタファーとして描かれているけど、映画では女は被害者ではなく、新しい目覚めの儀式に参加する、男と同格の参謀者として映るように手を加えた。物語の終わりにはエリザベス(女性の主人公)は自分で心を決めるんだ。


ストーリーはセックスに虜になった男と女の9週間半を追う。謎多き証券会社のヤンエグ(ミッキー・ローク)は「君は僕の分身だ」と言って、アートギャラリーで働くエリザベス(キム・ベイシンガー)にあらゆるエロティックを仕掛ける。時には男装や万引きを強要するが、女は戸惑いや怒りを感じながらも自己を解放するかのように受け入れていく。しかし、世話好きでサディスティックな男の要求は次第にエスカレートしていって……。

肉体関係による孤独や空虚の穴埋めは『ラスト・タンゴ・イン・パリ』のようだ。ミッキー・ローク演じるウォール街の成功者の奇行は、一歩間違えれば『アメリカン・サイコ』にも似た狂気が見え隠れする。そこに生活感も労働感も一切なく、あるのは性の欲望だけ。近年ヒットした『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の世界観ともリンクする。

音楽担当はジャック・ニッチェ。サントラにはデュラン・デュランのジョン・テイラー、ユーリズミックス、コリー・ハート、ブライアン・フェリーといった面々が参加している。また、映画ではローリング・ストーンズのロン・ウッドがカメオ出演。エイドリアン・ライン監督は翌年、男女関係の欲望をさらに掘り起こした『危険な情事』を手掛けた。

それにしても一貫してクールだったはずの男が、別れ際になって初めて現実的な身の上話を切り出すのが印象的だった。「自分はシカゴ郊外で育った5人兄弟の末っ子で……」。すると女が「もう遅すぎるわ」と遮る。ゲームオーバー。この時のどこか儚げなミッキー・ロークの表情に、スクリーンを見つめる多くの女性が魅せられたのは言うまでもない。

予告編


『ナインハーフ』

『ナインハーフ』


*日本公開時チラシ

*参考・引用/『ナインハーフ』パンフレット

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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