横浜で音楽が聴こえるバーやライブハウスを巡る『横濱オンガク的酒場』。横浜に魅せられ、横浜で暮らし、音楽と酒を愛する斉藤ヒロユキ(斉藤ネヲンサイン)がナビゲート。
かつて100軒ほどの漁村だった横浜村。1859年の開港から激動の時代を支えたオンガクと酒場に思いを馳せ、今夜の一杯を探す。
ベンジャミンという若いアメリカ人がいた……それは夏の夜、中華街の祭りがあった日だった。
20:25
夕方から始まった獅子舞はもう遠くに行ってしまったのかもしれない。もしくはもう終わってしまったのだろうか? 先ほどまで鳴り響いていた爆竹と銅鑼の音は、もう聞こえない。徐々に通りを行く人も減ってきたようだ。夕飯はとうに済ませてしまったし、そろそろ2軒目を、と歩き始めた頃だった。
関帝廟通りという道がある。中華街ではメインストリートではないが、2番目か3番目に賑わう通りだ。その中ほどには地元で小公園と呼ばれるエリアがある。山下”町”公園という正式名称があるのだが、そう呼ぶことは少ないようだ。あの山下公園と名前が似ているので紛らわしいのだろう。
さて、話を戻そう。
公園の入り口は休憩所の様になっており、祭りを終えた人々や通りすがりなどが自由に休んでいる。何となく、ロングヘアの男と目が合ってしまった。1人なのだろうか? 少し困っているような雰囲気を出していた。
「どこか探してるのかい?」
と私。
“What’s?”
と彼。
やっちまった。どうやらアジア系の欧米人だった。日本人だと思って声をかけたのに、苦手な英語で一生懸命会話をすることになりそうだ。
彼の名前はベンジャミン、「ベンと呼んでくれ」と言った(歳は聞いたけど忘れてしまった。23くらいだった気がする)。Tシャツにビーチサンダル、ルーツは中国かどこか。日本でもおかしくない顔立ち。肩まである黒髪のロングヘアだ。出身を聞くと「アメリカ、L.A」だと。なるほど、声をかけたのはその雰囲気に既視感があったからかもしれない。
最近、JC’S BARのTVで流れていて、かぶりつくように観てしまった映画『ロード・オブ・ドッグタウン』を思い出した。1970年代中盤、L.A.ドッグタウンと呼ばれたエリア。サーフィンとスケートボードに明け暮れたZ-BOYSという伝説のチームを描いた伝記映画。
70’sのスケーターを思わせる、西海岸らしいボーダーのTシャツにロングヘア。まさに彼はその街からやって来ていた。夜風が爽やかに吹く中、頭の中を西海岸を思わせるサウンドが巡った。
「Walking in Rhythm」- The Blackbyrds

ひょんなことから立ち話をすることになったベンだったが、実に穏やかな男だった。1人で来たという。
“Where did you come from today?”
“Shinjuku. I’m here for like a month this summer.”
私の中学生のような英語に対し、流暢に答えた。
どうやらサマーバケーションで1ヶ月ほど新宿に滞在しているらしい。立ち話も何だなと思い聞いてみた。
“Can you drink? …Like…beer?”
“Yeah, I do.”
そうか、それは良かった。これは本当にアテンドすることになりそうだ。つい苦笑いをしていたかは分からない。とりあえず、面白い夜になりそうだ。
“Alright, let’s go.”
20:45
どこへ行こうか?何も考えていなかったのは当然のこと。とりあえず、タバコ屋の隣でドリンクを出していたので購入してみる。普段、食べ飲み歩きはしないが今夜のシチュエーションにはちょうど良かった。
この場合、大事なことは青島ビールがよく冷えていることだ。そして、その緑の瓶はちょっとだけ冷えていた。
“KANPAI”
敢えて日本語で瓶をカツンとぶつけた。
今夜中に新宿に帰る青年と中華街を歩く。(おそらく)観光で来たのであろうから、写真映えする道を歩いてみようか。提灯に赤く照らされる市場通り、怪しく光る台南小路、煌びやかな香港路の脇道を通り、関帝廟へ。隙間のような小路を写真を撮りながら歩いた。間違いないコースだった。
21:05
ビールを飲み干した頃、瓶は結露で濡れていた。どこからかうっすらJAZZが聴こえる…
「MINTON HOUSEか、最高だ」
ベンとの2杯目は、老舗ジャズ。バーのミントンに(勝手に)決めた。
21:07
この季節、「ミントンハウス」のドアは開けっぱなしだ。外よりも薄暗い気がする店内に入っていった。ちょうど”おいどん”と呼ばれるマスターが入口すぐ横のターンテーブルで、次のレコードを乗せるタイミングだった。
「ジョニ黒のソーダ2つお願いします」
聞こえてた?と思ったが、しばらくしてジョニ黒はカウンターに届けられた。(勝手に)オーダーしたドリンクにも関わらず、ベンは何も言わずに2度目の乾杯をした。ソーダ割りは今日の湿度に丁度良い濃さだ。
次のレコードは意外にも浅川マキだった。
まさかの選曲に歓喜したが、気になるのはベン。日本語で歌われるブルーな響きに、西海岸から来た青年はどう思ったのだろう。横顔を覗くと、ボーッと聴いているようだった。
Blue Spirit Blues/浅川マキ

それから、何枚のレコードを聴いただろうか。ベンとは時々思いついたことをボソっと話しながら、時間を過ごしていた。
22:10
これから1時間近く電車に乗って新宿に戻るのか。
“You heading out soon?”
と私。
“…Yeah…I should get going. Where’s the station?”
とベン。
店を出る。街は店も閉まり、往来も減っていた。そして駅の改札まで送り届け、乗るべき電車を教えた。ベンは朗らかに手を振りながらエスカレーターを下り、帰っていった。
22:25
「この時間なら、もう一軒行こうかな」
いつもの酒場へ向かう途中、「今日は何を話したんだっけ?」「彼の感想はどうだったんだろう?」と沢山の疑問符が浮かんでいたが、悩んでも仕方がないことだ。
「ミントンハウス」がオープンしたのは1975年。偶然にも『ロード・オブ・ドッグタウン』が描いていた年と同じだった。夏が終わる前に、もう一度観てみようかな、とすり替えて結論づけた。
文/斉藤ヒロユキ(斉藤ネヲンサイン)
*今日の一杯はこちら。
ジョニーウォーカーブラックラベル&ソーダ
【登場したお店】
店名:MINTON HOUSE(ミントンハウス)
住所:〒231-0023神奈川県横浜市中区山下町276 浜田ビル 1F
アクセス:JR京浜東北線・根岸線「石川町」駅 徒歩7分
みなとみらい線「元町・中華街」駅 徒歩9分
電話:070-2823-5684
営業時間:17:05-24:00(定休日なし ※1/1~3休)
【横濱オンガク的酒場 バックナンバー】
#01〜21時55分の「スリーマティーニ」
#02〜16時27分の「SAKE ‘n’ ROLL」
お知らせ・TAP the POPとのコラボイベントが開催!!
【斉藤ネヲンサインリサイタル】「横濱オンガク的酒場」の筆者である斉藤ヒロユキ率いる斉藤ネヲンサインが地元・横浜に登場。TAP the POPとコラボレーションします。書籍『音楽愛(ONGAKU LOVE)』に掲載されたエピソードに合わせて、名曲を演奏するコーナーもあり。TAP the POPからは中野充浩がトーク参加。マリンFMのDJでお馴染みのラヴィッツ松尾(his hair)の飛び入り予定。TAP the POPの書籍や限定グッズも販売予定。
▶︎日時:2026年9月12日(土)
1st stage 19:00〜/2nd stage 20:00〜(※入れ替えなし)
▶︎会場:長者町FRIDAY
神奈川県横浜市中区長者町8丁目123番地 相模屋ビル3階
▶︎TEL:045-252-8033
▶︎料金:music charge ¥3,000(別途ワンドリンク&ワンフードオーダー)
※ご予約はお店に電話、もしくは斉藤ネヲンサインInstagramなどSNSのDMにて受付ます(必ず返信します)。

- 斉藤ネヲンサイン
高度成長期の昭和カルチャーに影響を受け、どこか懐かしい感じのコンテンツでライブ、イベント運営をしている。ヨコハマを拠点に活動中。
”Saito Neonsign” is a “Showa Kayo” style activity from Yokohama.We’re playing original tunes inspired from 40’s-70’s Japanese oldies.
公式サイトはこちら

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