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スティーヴィー・レイ・ヴォーン〜最悪な一夜を人生の転機にしたSRV

2024.08.26

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スティーヴィー・レイ・ヴォーン(Stevie Ray Vaughan)と1982年のモントルー伝説


1982年7月17日。毎年恒例のモントルー・ジャズ・フェスティバルが、スイスのレマン湖畔の町で行われていた。その日のブルーズ・ナイトでは、27歳のスティーヴィー・レイ・ヴォーン率いるダブル・トラブルのステージが始まろうとしていた。

当時すでにこの3人組は、テキサスを中心とするアメリカ南部のブルーズ・サーキットでは誰もが認める存在となっていた。レコード契約はまだなかったものの、ローリング・ストーンズのパーティに呼ばれて演奏したり、ザ・クラッシュの前座としてステージに立ったりと、いつその存在にスポットライトが当てられても不思議ではない状況。彼らにとってその夜は、世界へ向けての華々しい出発点になるはずだった。

ブルーズ・スタンダードの「Hide Away」で幕開けるステージ。くわえ煙草の堂々とした佇まいで、ブルーズに身を捧げたとしか言い様のない凄まじいプレイを繰り広げるスティーヴィーのギター。「Pride and Joy」や「Texas Flood」と圧巻の演奏は続く……。

しかし、客席の反応は鈍い。曲を追うごとに大きくなるブーイング。彼らがまだ無名だから? 余りにも自信に溢れているから?

この夜のアクトは座って演奏する静かなアコースティックが中心だったこともあった。だが怯むことなく途中退場はせず、彼らはテキサスにいるかの如く(*注)自分たちの演奏を貫き通した。

そして多くの保守的なブルーズ・ファンたちから浴びせられる激しいブーイングの中、怒りと悲しみの狭間でスティーヴィーはステージを降りた。この時、彼はメンバーに「傷ついたよ。いい演奏なのに」と零したという。

最悪な夜だったが、一方で実りもあった。

彼らのステージに感銘を受けたデヴィッド・ボウイが楽屋に呼びに来たり(スティーヴィーはボウイの1983年のアルバム『Let’s Dance』に参加。脇役に徹さなければならないワールド・ツアーへの参加は悩んだ末に断った)、翌晩にはジャクソン・ブラウンと会場のバーで自由なセッションを楽しんだ(これが縁でブラウン所有のスタジオを無料で使用させてもらうことになり、翌年のデビュー・アルバム『Texas Flood』を録音したのは有名な話だ。お礼に子馬を贈った)。

さらにボブ・ディランやブルース・スプリングスティーンなどを手掛けた伝説的プロデューサー、ジョン・ハモンドがこの時の録音テープを聴いていて契約を交わすことにもなった。この夜のブーイングは、一転して“密かなる成功”へと変わったのだ。

ジャクソン・ブラウンは当時を振り返る。

僕がインタビューを受けている時、バンドのメンバーが「ちょっと来いよ!」って呼びに来てね。「邪魔して悪いけど今すぐ見に来るべきだ」って言われた。彼の演奏を聴いて「この才能を生かしたい。この才能を放っておいては勿体ない」って思った。
目にも留まらぬ速さで指が動きまくるんだ。しかも正確に。天下一品のギタリスト。それは紛れもない事実だけど、僕は彼の歌にも強く魅かれる。ブルーズの新時代を築いたんだ。


3年後の1985年。
彼らはモントルーのブルーズ・ナイトに、ヘッドライナーとして再登場。盛大な拍手と歓声がスティーヴィーたちを迎えたのは言うまでもない。

(*注)テキサスにいるかの如く
アメリカ南部のブルーズ・サーキットでは知らぬ者はいなかった彼ら。その夜の凄まじい演奏は、DVD『ライヴ・アット・モントルー 1982&1985』で堪能できる。3年後の客席の反応の違いがはっきりと分かる。

Stevie Ray Vaughan 1954.10.3-1990.8.27

ブーイングを浴びた1982年のステージ


3年後の1985年のステージ


Live at Montreaux 1982 & 1985


Stevie Ray Vaughan: The Complete Epic Recordings Collection

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*参考・引用/DVD『ライヴ・アット・モントルー 1982&1985』
*このコラムは2022年8月に公開されたものを更新しました。

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