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スパイダースとビートルズに出会ったかまやつひろしの快進撃は27歳になると同時に始まった!

2025.03.01

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かまやつひろしはもともとカントリー好きで、ハンク・ウィリアムス以下ひと通りのものは聴いてから、自分でも歌い始めた。

1958年に始まったロカビリー・ブームのなかから音楽シーンに出てきたのはめぐり合わせで、初めからロカビリーはどこか苦手だったという。ただ、エルヴィスの登場には「すごいのが出てきたなぁ」と感心した。

エルヴィス・プレスリーの登場がショッキングな出来事だったことはたしかだ。彼はロックを若者の音楽にした革命児で、怒れる若者の代弁者のような反モラル的な匂いを発散していた。


そのうちに周囲がロカビリー一辺倒になったので、その波に乗るような形になっていった。

日劇ウェスタンカーニバルには、初年度の12月公演から僕も出演するようになった。だが、ロカビリーはどうも好きになれなかった。何かホテルのショーのような感じがして、エルヴィスみたいなフラッシュな格好はしたくなかった。ロカビリーのシャウトも苦手だった。


ロカビリー・スターが総出演した映画が二本、1959年の夏に立て続けに公開になっている。かまやつひろしも出演したが、『青春をかけろ』では与太者の一人、『檻の中の野郎たち』では”イー公”、”ハー公”、”ロー公”のうち、”ロー公”という端役だった。どちらも役名さえも付いていなかった。

『青春をかけろ』の主題歌だったのが「黒い花びら」(作詞・永六輔 作;編曲・中村八大 歌・水原弘)で、これは第一回レコード大賞を受賞する大ヒットになった。

かまやつひろしはその頃、水原弘と井上ひろしの組み合わせで、”三人ヒロシ”として売り出されていた。だが「黒い花びら」でスターになった水原弘は、もう”三人ひろし”である必要はないと一抜けてしまった。

空いた席に加わったのは新人の守屋浩だったが、浜口庫之助が書いた「僕は泣いちっち」がヒットして歌謡曲で売れっ子になった。井上ひろしもまた戦前の流行歌「雨に咲く花」をリバイバル・ヒットさせて、歌謡曲に転向していった。

二人が独り立ちしたために”三人ヒロシ”は自然消滅し、かまやつひろしだけが売れずに取り残された。

1960年になってようやく「殺し屋のテーマ」と「皆殺しの歌」という外国映画の主題歌でレコード・デビューした。

しかし「殺し」という言葉が放送コードに触れて放送禁止になったせいで、レコードはまったく売れなかった。それから2年ぐらいの期間に20枚ほどのシングルを出したが、ヒットは1曲も出なかった。

シングルかまやつ

だが、いま考えると、あそこでなにか一発うまく当たってしまっていたら、現在の自分はなかったと思う。仲間がみんな売れてしまって、面白くはなかったけれど、あの時ぼくだけ売れなくて、結果的に良かったと思う。


当時は売れない若い歌手の意見など、まったく取り合ってもらえなかった。カントリーをやっていきたいと思っていても、「かまやつも歌謡曲で一発、ヒットを狙うべきだ」と周囲が進めるので、「イヤだ」とは言えずに「マージャン必勝法」や「結婚してチョ」、「こんがらがっちゃった」という企画ものを出していた。

カントリーが自分の本質にいちばん合っているのかもしれないとぼくはいまでも思う。これは個人的な思い込む味かもしれないが、U2とか、現代のアイルランド系のバンドを聞くとカントリーの匂いがして、いいなと思う。


そんな先の見えない時代に光が差してくるのは1964年、ザ・スパイダースのゲスト・ヴォーカルに参加してからのことである。ちょうどその時、自分と同じ頃から音楽を始めていたビートルズが、アメリカでブレイクして一気に世界的な成功をおさめていた。

かまやつひろしは、彼らのレコード『ミート・ザ・ビートルズ』に出会って、スパイダースのメンバーと一緒に徹底的にをコピーすることで、ロックを自分のものにしていく。

そして正式にスパイダースのメンバーになってからオリジナル曲「フリフリ」を作り、バンドの音楽的な支柱として表現者の道を歩みじはじめる。

参照コラム*『ミート・ザ・ビートルズ』に出会ったかまやつひろしが確信した近未来、そこから生まれたスパイダースの「フリフリ」

かまやつひろしビーチボーイズ

大きなターニング・ポイントが訪れたのは、ビートルズが来日公演を行った1966年ことである。

かまやつひろしが27歳になったその年の1月に、ブライアン・ウィルソン抜きとはいえ、ビーチ・ボーイズと共演して内容で圧倒したという思いがあった。勝ち負けでいえば、完勝の手応えだった。

3月5日にはオランダ・フィリップスから「フリ・フリ’66/ビター・フォー・マイ・テイスト」が発売になり、海外進出の可能性が見え始めてきた。

初のアルバム「ザ・スパイダース アルバム NO.1」を発売したのは4月だが、これは全曲オリジナルという日本のロック史における画期的な作品となった。この時は「リバプール・サウンド」に対して、「トーキョー・サウンド」と名乗って対抗意識を見せていた。

5月にはホリプロダクションから独立、バンマスの田辺昭和を社長にした自分たちの「スパイダクション」を設立している。そして国内向けのヒットを狙ったシングル曲、「夕陽が泣いている」(作詞・作曲 浜口庫之助)を発売したのは9月だった。

それから10月24日から11月14日まで念願だった初のヨーロッパ・ツアーを敢行し、世界との距離がかなり縮まったと実感したが、しかしそこまでだった。

怖いもの知らずで海外を目指す勢いがあった27歳の頃を振り返って、かまやつひろしはメンバーだった堺正章との対談でこう語っている。

〈かまやつ〉
僕らはビートルズの出始めからのつき合いなので、追い抜けるんじゃないかって感覚を真面目に持ってたからね。外国へ行って勝負しても勝てるんじゃないかってね。ダメだったけど…。(笑)

〈堺〉
外国に、ちゃんとしたルートも基盤もなく、破れかぶれに無名のグループが行って、世界的に有名なビートルズと勝負しても、俺たちは奇跡を起こして、負けないんじゃないかと思う気質がスパイダースの気質だったよね。


二人の話からはどんなに確率が低くても、本気で海外を狙っていたことがわかる。

〈かまやつ〉
でもやっぱりあの頃は夢が持てる状態だったね。僕らのように髪を伸ばして、エレキをかきならして成功するってのは、日本でもやっぱり百分の一の確率だったもの。もしかしてあの時点で、今くらい外国に強いスタッフがいたら成功してたかもしれない。

〈堺〉
あの頃なかったのはやっぱりルートね。頼りはオランダのフィリップス社だけだったもの。それでも嘘じゃなく、オランダ空港に降りたらファンがいっぱいいたし、ロンドンでは、ほとんどの新聞に出たものね。


ロンドンからの帰りにヒースロー空港で楽器の見張りをしてたら、同じように楽器の見張りをしてる若者が近付いて来て、「あんたスパイダースだろ?」といわれて驚かされた。それがザ・フーのキース・ムーンだったというエピソードも、かまやつひろしらしいものだといえる。

しかし、彼らが日本に帰ってくると、不在の間に大ヒットしていた「夕陽が泣いている」のおかげで、一躍人気者になって国内での活動に追われて、もはや海外進出の時間的な余裕はなくなってしまう。

そしてGSブームの先駆者に祭り上げられた直後に、タイガースやそれに続いたテンプターズなどに人気の面で追い越されて、GSブームという流行に組み込まれて、全体が凋落するととともにバンドとしての快進撃は止まってしまうのである。

(参考文献)かまやつひろしの発言は、ムッシュかまやつ著「ムッシュ! 」文春文庫からの引用です。また、かまやつひろしと堺正章の対談は、「グループ・サウンドのすべて」(ペップ出版)からの引用です。


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