「ハリー・ニルソンはオレの親友だった」
(リンゴ・スター)
「彼は柔らかで滑らかな美しい声の持ち主でした。言葉の使い方もとてもユニークで独創的でした」
(オノ・ヨーコ)
「天才だった男の実像。真実はハリーに優しく、ありのままの事実は一度も人に嫌われたことのない男をより魅力的にする」
(ジミー・ウェッブ)
その類い稀な才能と歌声で、2度もグラミー受賞をしているにも関わらず、1度もライヴを行なうことなくこの世を去った才人ハリー・ニルソン。
ビートルズのメンバーと親交が深く、音楽ファンの間では“ビートルズに多大な影響を与えた男”としても知られている特にジョン・レノンは彼を高く評価し、一時はポール・マッカートニーの代わりにビートルズに加入するなどの噂が流れたりもした。
その名を知らずとも、ニルソンの残した楽曲は、誰しも一度は聴いたことがあるのではないだろうか?
27歳の時に発表した2ndアルバム『Aerial Ballet(空中バレー)』(1968年)に収録したフレッド・ニールのカヴァー「Everybody’s Talkin’(うわさの男)」が、映画『真夜中のカウボーイ』(1969年)の主題歌として使用され、全米6位まで駆け上がるヒットを記録。
それはニルソンが27歳を迎えて半年が過ぎた頃の出来事だった。1968年の年末、アメリカの某ゴシップ誌のコラムにこんな記事が書かれた。
「フォークロック音楽のシーンでは、この国きってのホットな新人と注目されているハリー・ニルソンが、20世紀フォックスTVの新作ドラマ“ミセスと幽霊”で俳優デビューを飾る。彼はチャートでもヒットすること間違いなしのオリジナル曲を2曲番組内で披露する。“If Only”という曲では同番組の脚本編集者トム・オーガストと共作を行なった」
番組の設定はいたってシンプルだった。二人の幼い子供を連れたうら若き未亡人が、スクーナー湾を望む館に引っ越してくる。すると、その館に取り憑く船長の幽霊が彼女に恋をしてしまうのだ。彼女は生身の人間なので、船長の恋は成就しない。
性的な解放が謳われていた1967年の“サマー・オブ・ラブ”直後に企画されたこの番組は、意図的に逆のスタンスを取られていた。あえて古めかしい価値観を強調しながら、くっつきそうでくっつかない男女の関係が、全50回のエピソードに渡って描かれていたのだ。
主演の船長役は、のちに人気ドラマ『ナイトライダー』で若い世代にも知られるようになるエドワード・マルヘア。上品な語り口を得意とするアイルランド人だった。
そんなマルヘアが海賊のような髭を生やし、金髪を黒く染めて、幽霊の船長役をかなりわざとらしく演じていたのに対して、ニルソンははるかに自然に見える抑えめな演技を披露した。
当時“七色の声を持つヴォーカリスト”と評されたニルソンは、演技の場でもその才能を開花かせたのだ。ビルボード誌は「ハリーは今、TVドラマのパイロット版に無能なミュージシャン役で出演し、もう一本“多才なミュージシャンの特番”の番組製作が同時進行している」と書き立て、周囲は期待を膨らませた。
しかし、それらは実を結ぶことなく、ニルソンは相変わらずライブも行なわず、3rdアルバムの制作に勤しんだ。また、当時にルソンは自身の名前(アーティストネーム)についてユニークなスタンスをとっていた。
本名はハリー・ネルソンだが、芸名では名字をスウェーデン風のニルソンに変えている。これは彼の祖父がスウェーデンから渡米したことを意識したもので、自らのアイデンティティをアメリカの外に置く姿勢のひとつの表れだったという。
更に、アルバムジャケット表記の大部分においては、アーティスト名を“ハリー・ニルソン”ではなく“ニルソン”と記している。芸名はファーストネームのない“ニルソン”なのかというと、必ずしもそうではない。
3rdアルバム『Harry』のジャケットには単に“ハリー”と書いてあり、“ニルソン”という表記は裏面に小さく記してあるだけ。つまり、自分の芸名をはっきりとさせていないのだ。
このような“ややこしさ”は、幼少の頃に体験した父親の死や、それに伴うニューヨークからロサンゼルスへの転居を通じて心に育まれていった、アイデンティティーに対する不安感が起因しているとも言われている。
<引用元・参考文献『ハリー・ニルソンの肖像』アリン・シップトン(著)奥田祐士 (訳)/国書刊行会>
Harry Nilsson (Original Album Classics)
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執筆者
【佐々木モトアキ プロフィール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12648985123.html

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