「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the DAY

クイーンの名曲「伝説のチャンピオン」

2023.07.14

Pocket
LINEで送る



1977年(昭和52年)11月25日、クイーンの「伝説のチャンピオン」(ワーナー・パイオニア)が発売された。
同年の国内ヒットソングといえば…
1位「渚のシンドバッド」/ピンク・レディー
2位「青春時代」/森田公一とトップギャラン
3位「ウォンテッド」/ピンク・レディー
4位「勝手にしやがれ」/沢田研二
5位「昔の名前で出ています」/小林旭


王選手がホームラン世界記録756号を達成して国民栄誉賞第1号受賞、日本の平均寿命が世界一になり(男72.69歳/女77.95歳)、カラオケやテレビゲームはブームとなり、白黒テレビ放送が廃止、日本赤軍による日航ハイジャック事件が世間を騒がせ、パンクファッション台頭し始めた年だった。


1977年、ロンドンではパンクロックが音楽シーンを震撼させていた。
パンクは怒れる音楽で、クイーンのようなバンドとは真っ向から対立した。
当時、セックス・ピストルズはこんな言葉を彼らに浴びせた。

「クイーンはイギリスの音楽業界の腐った部分の全てを象徴している存在だ!」


そんな逆風が吹く中で発表したこの「伝説のチャンピオン」は、後にクイーンのヒット曲の中でもっとも人々に愛され、人気が衰えることのない楽曲となった。
当時パンクブームの真っ只中にあったイギリスのマスコミの反応は悪かったものの、英国チャート、全米チャートと共に2位をマークし、業界紙『レコードワールド』のチャートではクイーンにとって初の首位を獲得した。
ブライアン・メイはフレディ作のこの曲を初めて聴いた時のことをこんな風に語っている。

「はっきり言うけど、あの曲を初めてスタジオで彼が聴かせてくれたときには、僕ら全員、床に倒れ込んで笑いコケたんだよ!」

当初、ブライアンとメンバーはフレディによる“一流の皮肉なんじゃないか”と受け止めたという。
一方、作者のフレディはこんなことを意図して曲を書いたと発言している。

「結局のところ、僕らは成功を掴んだんだけど、そこに至るまでは決して平坦な道のりじゃなかった。”安穏としていられたわけじゃない”って歌っている通りね。書いているときにはフットボールを思い浮かべていたんだ。僕が求めていたのは参加型の曲なんだ。ファンが興味を持ってくれてすぐに覚えられるような歌さ。あれは大衆のための曲なんだよ。」

同曲は発売直後からニューヨーク・ヤンキーズ(野球)とフィラデルフィア・セブンティシクサーズ(バスケットボール)のファンたちが応援歌として使うようになった。
フレディは当時の反応に対する気持ちをこんな風に語っている。

「とりあえず出してみて、どういう風に受け止められるか確かめてみようって僕は思ってた。最終的には予想以上の素晴らしい反応があって嬉しかったね。僕らがあの曲を(リリース前に)ロンドンのプライヴェート・ライヴでプレイしたとき、ファンが突然フットボールチャント(応援合唱)を始めてさ。でももちろん僕は単なるありきたりのチャントじゃなくて、もっとシアトリカルな(劇場風な)要素を加えたけどね。分かるだろ?それが僕のやり方だから。」

シングルが発売された当時は「歌詞のチャンピオンというのは自分たちのことを指し、自分たちが世界一だと思い上がっているのではないか」と批判されたが、後にブライアン・メイは「この曲は自分たちをチャンピオンだと歌っているのではなく、世界中の一人ひとりがチャンピオンなのだと歌っている」と反論している。
またNME誌は、この曲がイギリス中のサッカーの試合で使用されるようになったことを受け「あの曲は世界中のサッカーファンのために作られたようなものだよ。あっというまにスタンド席でヒットするだろう。バカな奴らにはピッタリな作戦だ。」と、サッカーファンを敵に回すような記事を掲載した。


2011年、英ゴールドスミス大学の研究チームは、音楽心理分析学の観点から「伝説のチャンピオン」はポップ・ミュージック史上最もキャッチーな曲だという研究結果を発表した。
調査にあたって研究チームは数千に及ぶボランティアの被験者に研究対象となった楽曲を歌ってもらい、そのさまざまな特徴を分析したという。
その分析の過程で、研究チームは聴き手に好まれシンガロングとなる楽曲には次の4つの要素があることを見出している。
①長くて起伏も細やかなフレーズを含んでいること
②曲のフックとなるところではピッチが高低に急激に変化すること
③ボーカルは男性であること
④男性ボーカルが高音部で特徴的なボーカルを聴かせること

この公式を使って研究チームは「伝説のチャンピオン」が最もシンガロングとして歌いやすい楽曲であると結論づけたという。
これに続いたのが翌年に大ヒットを記録したヴィレッジ・ピープルの「Y.M.C.A.」(1978年)なのだという。


音楽心理分析学者のダニエル・ムレンジーフェン博士はこの研究結果についてこう語っている。

「音楽の音程とハーモニーを決定するサウンドの物理と周波数に始まって、曲をもっとキャッチーにする効果をもたらすハイテク・デジタル・プロセッサーやシンセサイザーまで、どんな音楽のヒット曲も、数学的公理や科学、音楽工学、テクノロジーに大きく依拠しているものなのです。」


<引用元・参考文献『フレディ・マーキュリー~孤独な道化~』レスリー・アン・ジョーンズ(著)岩木貴子(翻訳)/ヤマハミュージックメディア>




【佐々木モトアキ プロフィール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12648985123.html

【TAP the POP佐々木モトアキ執筆記事】
http://www.tapthepop.net/author/sasaki


Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the DAY]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ