アメリカのシングルチャートで、ビートルズが1位から5位を独占するという快挙は、ビルボード誌の1964年4月4日号でのことだ。
1位 「Can’t Buy Me Love(キャント・バイ・ミー・ラヴ)」
2位 「Twist And Shout(ツイスト・アンド・シャウト)」
3位 「She Loves You(シー・ラヴズ・ユー)」
4位 「I Want To Hold Your Hands(抱きしめたい)」
5位 「Please Please Me(プリーズ・プリーズ・ミー)」
1962年10月にデビューしたビートルズは、翌年早々に2枚目のシングル「プリーズ・プリーズ・ミー」がブレイクし、一気にヒットチャートを駆け上った。
それからは発表するシングルが全てナンバー・ワンになっただけでなく、ファースト・アルバムとセカンド・アルバムが1年以上もアルバムチャートの1位を独占した。
プロデューサーのジョージ・マーティンは、アメリカにおける優先契約を持つロスアンゼルスのキャピトル・レコードに対して、ビートルズのシングル盤をアメリカで発売するようにと再三にわたってアプローチしていた。
しかし、海外アーティストの発売を左右する立場にあったA&Rマンのデイブ・デクスター・ジュニアから、「残念だがアメリカのマーケットでは売れる見込みはない」と断られ続けることになる。
「ラヴ・ミー・ドゥ」と「プリーズ・プリーズ・ミー」、それに「フロム・ミー・トゥ・ユー」の3枚のシングル発売権は、フォーシーズンズを大ヒットさせていたシカゴのインディーズ、ヴィー・ジェイ・レコードの手に渡った。
だが、デイブが判断した通りにチャートの100位内にも入らず、アメリカでのビートルズはヒットの兆しがまったく見えなかった。
同じ頃にデイブは、キャピトルの経営陣に無断で、各地の放送局やジュークボックスに日本の歌をプロモーションしていた。そしてテスト盤として配った坂本九の「SUKIYAKI」が、ラジオから火がついてなんの宣伝もしないのに大ブレイクして、なんと全米1位の記録を打ち立てたのである。
キャピトルの経営陣も驚いただろうが、デイブ自身も信じられない気持ちだったらしい。
「SUKIYAKI」がアメリカで大ブレイクした頃、ビートルズのマネージャーだったブライアン・エプスタインもまたキャピトルの経営陣に、ビートルズの4枚目のシングル「シー・ラヴズ・ユー」を発売するようにプレッシャーをかけた。
だがデイブはレコードを聴いて、経営陣からの要請さえも拒否した。
「何度も云うようにこの子たちの音楽では無理だ」
気骨あるジャーナリスト出身だったデイブは、上司や外野からの圧力で動くような人間ではなかった。
ヴィー・ジェイがさじを投げてしまっていたので、「シー・ラヴズ・ユー」はフィラデルフィアのインディーズだったスワン・レコードが引き受けた。
だがこれも空振りに終わり、ビートルズのアメリカ進出は軌道に乗らないままだった。
ところがデイブは10月にロンドンに出張した際に、レコーディングが終わったばかりだったビートルズのシングル盤、「I Want To Hold Your Hands(抱きしめたい)」を聴いて衝撃を受けた。
レコードを聴いた瞬間、デイブは「これはビートルズじゃないだろ!」と叫んでいた。
しかし、それは正真正銘、ビートルズの新曲だった。
それまでの拒否から一転してビートルズのレコード・リリースを快諾したのは、「これはアメリカでもヒットするぞ」と、デイブの耳が確信したからである。
キャピトルは「I Want To Hold Your Hands」を1月13日に発売する予定を立てたが、12月に入ってワシントンDCのラジオ局が、11月にイギリスで発売されたレコードをオンエアした。
するとリスナーからの熱い反応があったので、他のラジオ局も次々にイギリス盤を手に入れて追随していった。
ラジオ曲にリクエストが殺到したのを知ったキャピトルは、急遽12月26日に発売を前倒しすることを決める。
こうして歴史的なビートルズのアメリカにおける快進撃が始まった。
1964年2月1日に「抱きしめたい」が全米1位となると、まったく売れていなかったスワンの「シー・ラヴズ・ユー」が69位から21位へと、一気に上昇し始めたことでブレイクは本格化した。
ヴィー・ジェイの「プリーズ・プリーズ・ミー」も、遅ればせながら69位に入ってきたのだ。
ビートルズは2月7日にテレビの人気番組「エド・サリヴァン・ショー」出演、アメリカのテレビ史上で最大の視聴者数を記録する。
ワシントンD.C.とニューヨークのカーネギー・ホールでコンサートを行ったビートルズがイギリスに帰った後も、アメリカはビートルズ一色に染まっていった。
やがて全米ツアーでのオープニング曲「ツイスト・アンド・シャウト」にも火がついて、1位から5位までをビートルズが独占するという、前代未聞の快挙が達成されたのだった。
(初出2014年4月4日 改訂2016年4月4日)
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