日本から世界へと言葉の壁を超えて届けられた最初の歌が、1963年に全米1位のヒットを記録した坂本九の「上を向いて歩こう」だったことは良く知られている。
だが1961年から翌年にかけて日本でヒットした歌が、1962年の夏にフランスを始めとするヨーロッパ各国でも日本語のまま、レコードが発売されていたことはほとんど知られていない。
フランスのレコード会社パテ・マルコニーはこのとき、坂本九が歌う日本語のままで通用すると判断していた。
だから当時21歳で人気絶頂のアイドル歌手だった坂本九はフランスに飛んで、そこからデンマーク、ノルウェー、イタリア、スイスと5カ国を2週間でまわり、テレビ出演するなどのプロモーション活動も行ってきた。
しかしながら、残念なことにマーケットからはあまり良い反応が得られないまま、このときはヒットせずに終わってしまう。
今になってみればわかることなのだが、ヨーロッパで発売になったレコードのタイトルは日本語をローマ字で表記したものだったので、外国ではまったく読んでもらえなかった。
ローマ字で書かれたタイトルの「UEO MUITE ARUKOU」を、ヨーロッパの国々ではどこの国の言葉か理解できなかったし、どう発音するかもわからなかったのだ。
ラジオでもアナウンサーやDJがタイトルを発音できなかったのだから、リスナーも曲名を覚えることができないのは当然だ。タイトルが日本語のローマ字だったことがセールス面にとって致命的な弱点で、評判が良かったのにラジオなどで広まらない原因となった。
だから1963年の1月にイギリスでケニー・ボールがインストゥルメンタルのジャズにアレンジした「上を向いて歩こう」を発売するときには、あらためてタイトルが「SUKIYAKI」と名付けられた。そこでは言葉の意味ではなく、日本を感じさせる響きが決め手になったという。
まもなくインスト・ヴァージョン「SUKIYAKI」はシングル・チャートで、10位に食い込むスマッシュ・ヒットになった。
アメリカでは1963年4月下旬に坂本九の歌ったオリジナルのレコードが、メジャーのキャピトルから「SUKIYAKA」のタイトルで、およそ2000枚のプロモーション盤が全米各地の放送局に送付された。
するといくつもの西海岸のラジオ局から好反応があったので、ヒットの兆しが見えたところから、「SUKIYAKI」にタイトルが変更されて、一般に発売にされたのである。
ラジオから火がついた「SUKIYAKI」はノンプロモーションだったにも関わらず大ヒットし、6月15日から3週間にわたって全米シングルチャートの1位に輝いた。
アメリカ各地のラジオ局やジューク・ボックスから盛んに流れていた「SUKIYAKI」を、十代の若者たちは日本語で歌いたくて一生懸命に覚えようとしたそうだが、ほとんどは難しくてあきらめたという。
それでも間奏の16小節が口笛のソロだったおかげで、日本語で歌えなくてもメロディを一緒に口ずさめるという点で、作・編曲した中村八大のアレンジは効果的で、大ヒットの要因のひとつとなった。
当時の雑誌がニューヨーク特派員の報告として、こんなふうに伝えている。
ニューヨーク・セントラルパークを散歩していると「UEO MUITE ARUKOU」のメロディーを最近よく耳にする。見ると、一七、八歳の若者が、楽しそうに口笛を吹いているのだ。
繁華街の中心地、タイムズ・スクエアにあるレコード屋の前を通っても、決まって聞こえてくるのが、この「上を向いて歩こう」。坂本九が日本語で歌うこの曲は、今やアメリカでもヒット曲になった。
(『週刊サンケイ』1963年7月1日号)
ちなみに同じ時期にアメリカ進出を狙って発売されたビートルズの3枚目のシングル「フロム・ミー・トゥ・ユー」は、イギリスで7週間連続1位のヒットになったものの、アメリカでは時期尚早だったのか不発に終わり、最高でも116位止まりだった。
ところで坂本九のヴァージョンはすぐにタイトルが「SUKIYAKI」に変更されたが、ビリーボーン楽団のインストによるカヴァーや、カナダのルシール・スターが歌ったヴァージョンは、その後も「SUKIYAKA」のまま発売されていた。

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