日本の音楽シーンに多大なる足跡を残した「RCサクセション」が1979年、ロックバンドに変わってから最初に発売したシングルは「ステップ」だった。
そのB面に入っていたのが、ロックにアレンジされた「上を向いて歩こう」である。
作詞:永六輔、作曲:中村八大による坂本九の不朽の名曲を、大胆なバンド・スタイルのアレンジででカバーしたのは忌野清志郎の発想だった。
しかし、そのときは残念ながらヒットしなかったのだが、「上を向いて歩こう」のロック・ヴァージョンはライブで評判になって、1980年に発売されたライヴ・アルバム『RHAPSODY(ラプソディ)』に収録された。
そこから多くのロックキッズたちに知られるようになっていったが、忌野清志郎はこの曲をライヴで歌う前に必ず、こんな MC をつけて歌い始めるようになった。
「日本の有名なロックンロール! ワン! トゥー! ワン、トゥー、さん、し!」
RCサクセションは80年代の幕が開いたと同時にブレイクし、そこから破竹の勢いでライヴを重ねたことによって、スタジオ・ヴァージョンよりもライヴ盤のテイクのほうが「カッコイイ!」という話が広まった。
それが定着したのは1981年あたりからになるのだが、同じ頃にアメリカでも「SUKIYAKI」の英語ヴァージョンがヒットし始めていた。
「上を向いて歩こう」の作詞家だった永六輔は、その頃に週刊明星に連載していた「ダベリファソラシド」の第29回で自分の体験を書いている。(昭和56年4月16日号)
アメリカの友だちが長いドライブをしてたら、1日のうち5回、その車の中で『スキヤキソング』、いってみれば『上を向いて歩こう』を聞いた、という電話があったのが10日ほど前。そして、3月14日のビルボードの要するにベストテンが送られてきまして、そのソール(Soul)部門で、なんと「8」位。下からどんどん、どんどん上がってきて、いま8位というところに『スキヤキ』という文字がありました。
永六輔はそのコラムで、なんとなくの推測としてテレビドラマの大作『SHOGUN』が1980年9月に5夜連続で放映されて、大ヒットしたことをあげていた。
ドラマの影響で時ならぬ❝日本ブーム❞が起こっていたことは事実だったので、「スキヤキ」のリバイバル・ヒットを結びつけたのだ。
懐かしい曲がまたどうしていま頃アメリカでヒットしているのかわからないんですが、まあ、『将軍』というキッカケがあって、島田陽子さんがなぜかトロフィーを貰うわけですから、そんな感じのつながりで『スキヤキソング』がまたヒットチャートを駆け上ってきたんじゃないかと思います。ティスト・オブ・ハニーというとても魅力がある黒人の女の子ふたりのデュエットで、これから先どうなるか楽しみにしているんですけれども。
2月にシングル盤が発売されてR&Bチャート入りを果たした「SUKIYAKI」は、そこから順調に上昇していったが、4月から急速に勢いがついて5月9日付けで第1位の座に輝いた。
これはテイスト・オブ・ハニーにとってデビュー曲「今夜はブギ・ウギ・ウギ」に続く、二度目のR&BチャートにおけるNo.1ヒットになった。
その勢いはブラック・ミュージックというジャンルにとどまらず、白人向けのポップス・チャートにまで広がっていく。ちなみにビルボード誌のポップス・チャートで40位以内に入るということは、シングルがヒットしたか否かの合格ラインとされている。
それはビルボード誌の音楽チャートを40位から1位までを紹介するラジオのカウントダウン番組、「全米トップ40」の影響がきわめて大きかったからである。
4月11日に「全米トップ40」で34位にランク・インした「SUKIYAKI」は、番組のなかで名物DJのケーシー・ケイサムによって、原曲が坂本九に日本語で歌われて1963年にナンバーワン・ヒットとなったことや、料理がタイトルなったいきさつなども紹介された。
そして翌週が32位、その翌週が30位で足踏み状態になったが、そこから一気に18位へと順位を上げると、次は9位へとジャンプアップしてベストテンに入ったのである。
そこから8位、8位と足踏みをしたものの、6月に入ると4位、3位と上昇して、いよいよ首位を脅かすまでになった。
しかし、その年最大のヒット曲となったキム・カーンズの「ベティ・デイヴィスの瞳」が強力で、9週間の長きにわたって首位に君臨し続けたために、坂本九に続く「SUKIYAKI」のナンバー・ワン奪取は叶わなかった。
それでも売上枚数が100万枚を越えたので、ゴールド・ディスクを獲得するという快挙を達成した。
子どもの頃に坂本九のオリジナル聴いて育った後継者たちによって、まったく同じ時期に新しい命を吹き込まれた「上を向いて歩こう」が、日本とアメリカでそれぞれにヒットしたのは、奇跡の歌にふさわしい偶然であった。

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