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忌野清志郎「自分の感じたことを、そのまま形にしたいから、一つの詩を、ああでもない、こうでもないと、何日も考えてる」

2023.05.05

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「ダーリン・ミシン」という不思議なタイトルの歌を書いたのは忌野清志郎だ。

まだ貧しくて無名の恋人同士、「君」と「僕」が部屋で過ごしているシチュエーション。
贈り物にもらったワイン(果実酒)やお正月という言葉が出てくることからして、季節はクリスマスの頃だろうか
一見すると平和そのものに思える温かな部屋のなかで、「君はミシンを踏んでいる」と歌われるロックンロール・ナンバーだ。

忌野清志郎のつくる歌には、独創的なものが多い。
それはいつも「他人がまだ何を歌っていないか」を考えていて、「まだ歌われていないこと」を探していたからだった。

この曲をライブで歌い始めたのは、後にRCサクセションの暗黒時代といわれた頃のことだ。
渋谷のライブハウス「屋根裏」で演奏したと思われる音源を、いまはYOUTUBEで聴くことができる。



忌野清志郎はこの歌を作った頃、友人の仲井戸麗市に書いた手紙のなかで、音楽と歌で自分を表現することへの思いを綴っていた。

もっともっと強くなりたいよ。ぼくは、どんどん正直になって、何でもかんでも見せてやるんだ。それが夢さ。だから歌ってる。ぼくの感じたり見たりしたことを、表現したいという欲求からぼくは、やってる。歌うのより、絵をかく方が、好きだったらなら、ぼくを絵をかいていただろうよ。ときどき、歌っていて、絵を書いているような気持ちになるんだ。


正直で、まっすぐな言葉。
そして切実。
それは歌うのが好きな忌野清志郎の本質だ。

正直にやるには、時々、とても勇気がいるよね。自分の感じたことを、そのまま形にしたいから、一つの詩を、ああでもない、こうでもないと、何日も考えてる。


「ダーリン・ミシン」が初めてレコーディングされたのは1980年で、正式に仲井戸麗市がRCサクセションのメンバーに加入してから、最初のスタジオ録音によるアルバム『PLEASE』の1曲目になった。

そこではもとの歌詞にあった「君」が「オマエ」になり、「ダーリン」がミシンを踏んでいる「オマエ」への呼びかけに変わっていたのだ。

「君」よりも「オマエ」のほうが、男女ふたりの関係にある生々しさを伝えるものになっている。







(注) 本コラムは2017年12月22日に公開された『「ダーリン・ミシン」の詩に書かれた言葉から〈絵のように〉伝わってくる忌野清志郎のロックンロール』を改題、改訂したものです。
なお忌野清志郎の手紙は「ロックンロール研究所・編 生卵―忌野清志郎画報(河出書房新社)」からの引用です。

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