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エルトン・ジョンの「土曜の夜は僕の生きがい」が日本で発売された日

2019.08.20

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1973年(昭和48年)8月20日、エルトン・ジョンの「Saturday Night’s Alright for Fighting(土曜の夜は僕の生きがい)」(東芝音工)が日本で発売された。
同年の国内ヒットソングといえば…

1位「女のみち」/宮史郎とぴんからトリオ
2位「女のねがい」/宮史郎とぴんからトリオ
3位「学生街の喫茶店」/ガロ
4位「喝采」/ちあきなおみ
5位「危険なふたり」/沢田研二
6位「神田川」/かぐや姫
7位「心の旅」/チューリップ

石油ショックによる物価急上昇、トイレットペーパーや洗剤などの買いだめ騒動、日本電信電話公社が電話ファックスサービスを開始、ノストラダムスの大予言が出版され、オセロゲームが流行した年でもある。


この曲は1973年にエルトン・ジョンが発表したアナログ盤2枚組の7thアルバム『Goodbye Yellow Brick Road(黄昏のレンガ路)』に収録され、英国チャートで7位、全米チャートで12位を獲得している。
それまでレコーディングしてきたイギリスやフランスのスタジオではなく、気分を変えてジャマイカのスタジオで録音をスタートさせたのだが…環境の悪さから(やっぱり)使い慣れたフランスの古城を改築したスタジオに戻って製作が進められたという。
ちなみに前作『ピアニストを撃つな』や前々作『ホンキー・シャトー』も同スタジオで録音が行われた。
この頃のエルトンといえば曲作りもライブも共に好調で、まさに“黄金期”だった。
本作はグラムロックが全盛期を迎えていたイギリスにおいて、エルトンなりにロックンロールを意識した作風となっている。
プロデュースは、あのデヴィッド・ボウイのヒット作『Space Oddity』(1969年)を手がけたガス・ダッジョンが担当。
この曲が日本で発売された一ヶ月後(1973年9月16日付)の洋楽シングルチャートを見ると、当時エルトン・ジョンが如何に好調だったのかがわかるだろう。

1位「イエスタデイ・ワンス・モア」/カーペンターズ
2位「土曜の夜は僕の生きがい」/エルトン・ジョン
3位「007死ぬのは奴らだ」/ポール・マッカートニー&ウィングス
4位「愛のきずな」/シカゴ
5位「キャン・ザ・キャン」/スージー・クアトロ
6位「ギヴ・ミー・ラヴ」ジョージ・ハリスン

この曲がヒットした頃、日本のフォークグループとして“知る人ぞ知る存在”となりつつあったRCサクセションは「ぼくの好きな先生」のスマッシュヒット後に低迷期を迎えていた。
その当時22歳だった忌野清志郎が青春時代に愛読し、影響を受けたという小説がある。
ジョン・アップダイクの『走れウサギ』、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』、そしてJ・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』などと共に清志郎が挙げていたのがイギリスの作家アラン・シリトーの『土曜の夜と日曜の朝』だった。
今から約60年前のイギリス労働者階級の日常を描いたその長編小説に登場する主人公アーサーは、自転車工場につとめる二十一歳の青年。
彼の楽しみは、仕事を終えて工場を出たときからはじまる。
パブで飲んだくれて喧嘩し、友達の妻に手を出し、軍隊では落ちこぼれっぱなし…と、まるでエルトン・ジョンの「Saturday Night’s Alright for Fighting(土曜の夜は僕の生きがい)」が聴こえてきそうな日々を送っている。


土曜の夜こそ僕の生きがい
土曜の夜は最高!
俺が好きな音は二つだけ
飛び出しナイフとオートバイの音だ
俺は労働者階級の平凡な若僧
グラスの底に残る酒を親友とする男


シリトーがこの『土曜の夜と日曜の朝』でデビューした1958年と言えば、イギリスとアイスランドが漁業権を巡って争った“タラ戦争”が勃発した年でもある。
不安定な国内情勢が続く中、労働者階級の暮らしは決して豊かなものではなかった。
シリトーが物語の中に登場させた主人公はいつも何かに反発していた。
社会が不当に築いた規制への怒り、その規制を守ろうとする権力者の偽善に対するアナーキックな憤りから“不道徳行為”という方法で権威へのささやかなプロテストを試みたのだ。
エルトンの相棒バーニー・トーピン(当時23歳)は、10代の頃にマーケット・レーゼンの街で見た酒場での喧嘩を元に、この「Saturday Night’s Alright for Fighting(土曜の夜は僕の生きがい)」の歌詞を書いたという。
バーニーは、子供の頃から本を読むことが大好きだった。
格調高い文学作品から児童書「くまのプーさん」(A・A・ミルン)、アメリカ西部開拓時代の英雄ビリー・ザ・キッドの物語など、ジャンルを問わず様々な本を読みあさっていたというから、シリトーの『土曜の夜と日曜の朝』も読んでいたのかもしれない…

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