賢者曰く
今日は雨模様
そのかすれ声は
眠たげな地下鉄の
スピーカーから
滴り落ちていく
「幼き恋の日々」(原題「ウィー・オール・フォール・イン・ラブ・サムタイムス」)は、1975年にエルトン・ジョンが発表したアルバム『キャプテン・ファンタスティック(&ザ・ブラウンダート・カウボーイ)』に収められている曲だ。
史上初めて初登場1位を記録したこのアルバムは、エルトンと作詞家バーニー・トウピンの半生を振り返るような内容になっている。
1947年生まれのエルトン(本名:レグ・ドワイト)は神童だった。4歳からピアノを始め、一度聴いたメロディーはピアノで弾くことができた。11歳の時には、王立音楽院に合格し、クラシック音楽を学んだ。バッハやショパンが得意だったとされる。
1950年生まれのバーニー・トウピンは、文学少年だった。祖母など家族の影響もあり、小さな頃から文字と一緒の生活だった。
そしてふたりが出会って、数々の名曲が生まれたのである。
「幼き恋の日々」の冒頭部分を見ていただいてもわかるように、バーニーの書く詩は、歌詞というよりは、「詩」である。バーニー自身も次のように語っている。
「僕の書くのはポエムだ。エルトンがそれを歌にしてくれるのさ」
歌は、ロンドンを思わせる街の朝から始まる。
雨に煙る朝。
スピーカーから流れてくる音声が「滴り落ちる」と表現するところが、いかにもバーニーである。
声と雨の同化。
地下鉄の乗客の目はどれも眠そうで、主人公のことを気にかけるような者は誰もいない。
バーニーが設定した主人公は、デビュー前のエルトンである。
地下鉄に揺られながら、徹夜して疲れ切ったエルトンの脚は彼にこう告げるのだ。
人は時として、恋に落ちるものさ
そう、昨夜、二人は曲を書いていたのである。
バーニーが先に詩を書き、その詩にエルトンが曲をつけ、歌う。
その時、何かが起きる。
その「何か」のことをバーニーはこう表現したわけだ。
人は時として、恋に落ちるものさ
エルトン自身は、2013年にローリング・ストーン誌とのインタビューでこう語っている。
「あの歌を歌うと、泣いてしまうんだよ。僕はバーニーのことを愛していたからね。性的な意味じゃない。彼が、僕の人生で探し続けてきた人物だからだよ。僕の小さなソウルメイト。僕らふたりはこれまでもずっと一緒にやってきたし、僕らは今でもナイーヴなままだ」
エルトンの話を聞いていると、恋に落ちる(「フォール・イン・ラブ」)という言葉の意味が少しだけ理解できるような気がする。
【ラブ(Love)】。それは愛する者だけが創り出すことができる仮想空間なのである。
実際、エルトンの「バーニーのことを愛している」という発言は、原文では「 I was in love with Burnie」(僕はバーニーと一緒に愛の中にいた)である。
人は時として、奇跡のように、愛という仮想空間を創り出す。
そして愛という仮想空間に落ちていく。
神が世界を創造するように、ふたりだけの世界を創り出し、そこで暮らすのである。
エルトン・ジョンは、バーニー・トウピンと出会う前からゲイだったことを告白している。
「でも、その時バーニーには奥さんがいた。でもね、バーニーという存在は特別なんだ。かけがえのないものさ。ずっと二人きりじゃなかったからこそ、続いているのかも知れないね。彼との関係は、僕の人生の中でいちばん大切なものなんだよ」
愛の世界に落ちた男女は性的な関係を持ち、新たな命を授かる。
愛の世界に落ちた作詞家と作曲家は、新たな歌を授かるのである。
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