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「明日なき暴走」を続けたボスが大人となる責任を感じた瞬間

2024.09.21

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1980年。ブルース・スプリングスティーンは、2枚組大作『ザ・リバー』を発表する。このアルバムは前作『闇に吠える街』の延長線上の作品を想定していた人たちを、少なからず驚かせることになった。

たとえば、『闇に吠える街』に収められた「暗闇へ突っ走れ」には次のような歌詞がある。それは、


盗むこと
騙すこと
嘘をつくこと
そして生きて、死ぬってことが
どういうものなのか


わかってない連中に対しての宣言である。


今夜、証明してやろう
証明してやろうじゃないか
一晩かけて、証明してやる
証明してやろうじゃないか
ガール
おまえのためにも証明してやる


ブルースが歌うのは、ストリートの英雄の姿だった。


そんなブルースに対しては、さまざまなイメージが作られていった。その代表的なものは、次のようなフォルクローレである。

夜中。一台の車がハンバーガー・スタンドの前に停まる。降りてくるのはブルースだ。
「ダブル・チーズ・バーガー。ノー・オニオン。ポテトもいらない」
オニオンは、ピクルスにかわるなど、いくつかのバージョンがある。そしてハンバーガーを受け取ったブルースは車に戻り、去っていくというストーリーである。

だが、『ザ・リバー』の中に収められたいくつかの曲は、そんなタフガイのイメージからはかけ離れたものだったのである。

中でも、聴く者を驚かせたのが「アイ・ワナ・マリー・ユー」だった。君と結婚したい、というシンプルなタイトルのこの曲は、次のような歌詞から始まる。


ベビーカーを押しながら
ストリートを歩いていく
君の姿を見ている
その髪にリボンが悲しげに
揺れているのを目にすると
俺のせいじゃないかって
気がするのさ


ブルースが歌ってきたのは、ストリートの弱者としての若者の叫びだった。だが、少しだけ年を重ねたブルースは、ストリートの弱者である女性を前にして、加害者意識を感じてしまうのである。


けっして笑わず
誰とも口を利かず
いつだってそうやって
君は通り過ぎていく
このぐちゃぐちゃな世界で
二人の子供を育てていく
ワーキング・ガールは
厳しい生活に違いない


そして、突然、ブルースは歌うのである。


リトル・ガール
君と結婚したい
ああ、そうさ
リトル・ガール
君と結婚したい
本気だよ
リトル・ガール
君と結婚したいのさ


何故、ブルースはこの歌を歌ったのだろうか。

この歌の余韻は、そのままアルバムのタイトル曲「ザ・リバー」へとつながっていく。だがその前に、次回は父親との確執を歌った「インディペンデンス・デイ」を紐解いてみようと思う。

何故なら、この「アイ・ワナ・マリー・ユー」にも次のような歌詞が唐突に出てくるからである。


俺の親父は死ぬ間際に言った
真実の愛なんてものは嘘っぱちだと
親父は傷ついた心のまま死んでいった
満たされない人生は
人を頑なにしてしまうんだ



ブルース・スプリングスティーン『ザ・リバー』
Sony

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