お前と一緒だった時の服は置いていく
俺には、レイルロード・ブーツと
レザー・ジャケットがあればいい
トム・ウェイツは、1980年に発表した『ハートアタック・アンド・ヴァイン』に収録された「ルビーズ・アームス」で、リッキー・リー・ジョーンズとの別れを歌った。
リッキーと別れたトムは、ふたりの思い出が漂うロスを離れ、新天地ニューヨークへと活動の場を移している。
だが、二人の別離を知らなかったのだろう、映画監督フランシス・コッポラは、二人に新作映画の音楽を担当してくれないか、とオファーを出したのである。コッポラが制作しようとしていたのは、1982年に公開されることになる『ワン・フロム・ザ・ハート』である。
コッポラは当初、ヴァン・モリスンに依頼をしようと考えていたらしい。だが、1977年に発表された『異国の出来事』に収録されていた、トム・ウェイツとベット・ミドラーのデュエット「アイ・ネヴァー・トーク・トゥ・ストレンジャーズ」を聴き、トムに白羽の矢を立てたのだった。
リッキー・リー・ジョーンズは、当然のようにこの申し出を断った。だが、トムはとりあえず話を聞きに、二度と戻ることはないと思っていたロスに向かうことにしたのである。
少し時間を戻そう。トムが何もかも捨てて、ロスからニューヨークへと旅立とうとしたまさにその前の晩、ハリウッドではパーティーが開かれていた。
トムの映画デビュー作となった『パラダイス・アレイ』のスタッフ含めた、映画関係者の集まりだった。トムはそこで、ひとりの女性と出会っている。
「今日でこの街ともおさらばさ」と、トムは彼女に言った。おさらばするには、後ろ髪を引かれるような女性だった。
コッポラとの仕事のためにロスに戻ったトムは、ピアノ一台が置ける小さな部屋を借りた。そしてある晩、その部屋のドアがノックされた。
「一目惚れならぬ、二目惚れだったね」と、トムはラジオ局KCRWのインタビューで答えている。ドアを開けると、そこに立っていたのは、ニューヨークに旅立つ前に出会ったあの女性だったのである。
彼女の名前は、キャサリーン・ブレナン。コッポラ監督の下で、脚本の仕事を任されているのだと彼女は言った。彼女は、その打ち合わせでトムの部屋を訪れたのである。二人が恋に落ちるのに時間はいらなかった。
シャララララララ
俺はジャージー・ガールと恋に落ちたのさ
トムが彼女のために書いた「ジャージー・ガール」は、『ハートアタック・アンド・ヴァイン』に収録された。そして、二人は再会してわずか一か月で結婚した。
ブルース・スプリングスティーンをはじめ、様々な(特にニュージャージー出身の)アーティストがこの曲をカバーしている。ブルースが、「アトランティック・シティ」の歌詞の一部を入れ込んだカバーは、彼のライブ盤などで聴くことができる。
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