「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the ROOTS

サマータイムを思い出した夜

2026.04.12

1970年。アルバム『イン・ロック』を録音し終えたばかりのディープ・パープルのメンバーは苛立っていた。

前作『ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ』の評判は上々だったが、キーボード奏者、ジョン・ロードがリードするクラシック路線から、もう一度ハードロック路線への転換を計ろうと、全身全霊を込めて録音した作品だった。「チャイルド・イン・タイム」をはじめとした大作が並ぶ、納得がいくレコーディングだった。


だが、レコード会社は彼らに冷たい言葉を投げかけた。
「シングルになるような曲がないじゃないか」

バンドのメンバーはその言葉を背に、スタジオを出ると、近くのバーに逃げ込んだ。
「俺たちはハード・ロック・バンドなのだ。チャラチャラしたポップなシングルなど、作れるか!」

メンバーたちは、愚痴を言い合いながら、酒を飲んだ。だが、レッド・ツェッペリンの成功にも、シングル・ヒットが寄与していることは確かだった。そして、しこたま酒を飲んだ後、メンバーはスタジオに戻った。

酒に酔った時、人は正直になる。そして自然と、自分が好きだった音を思い出す。自分たちはこうあるべきだ、自分はこう演奏すべきだといった想いは消え、ただ気持ちいい音をプレイするようになる。

リッチー・ブラックモアが弾き出したギター・リフに合わせて、バンドが演奏を始める。リッチーが思い出したのは、リッキー・ネルソンの「サマータイム」だった。

リッキー・ネルソンは1940年生まれのアメリカのシンガーである。俳優としてデビューした彼がシンガーとなり、「サマータイム」を歌ったのは、1962年、22歳の時だった。 1944年生まれで、リッキー・ネルソンより4つ年下のリッチー・ブラックモアがそのヒット曲を耳にしたのは、彼が18歳だった時のことである。


だんだんと、曲の輪郭ができあがってくる。次は、イアン・ギランの番である。ボーカルのイアンは、この曲に合った歌詞を乗せようとする。そしてふと、ある曲のタイトルを思い出す。それが「ブラックナイト」だった。

イアン・ギランは、アーサー・アレキサンダーが1964年に歌った「ブラックナイト」を思い出したのである。アーサー・アレキサンダーは、アメリカのディープ・サウスのソングライターだが、地元アメリカ以上に、イギリスで人気があった。ビートルズが初期にカバーした「アンナ」も、彼の作品である。


こうして出来上がった「ブラックナイト」は、見事、シングル・ヒットとなる。そしてアルバム『イン・ロック』も大ヒットとなった。

当初「イン・ロック」には収録されなかった「ブラックナイト」だが、アニヴァーサリー・エディションには「イン・ロック」の1曲として収録されている。



『In Rock』

    TAPthePOPアンソロジー『音楽愛 ONGAKU LOVE』

    TAP the POPが初書籍を出版しました!

    「真の音楽」だけが持つ“繋がり”や“物語”とは? 
    この一冊があれば、きっと誰かに話したくなる

    今までに配信された約4,000本のコラムから、140本を厳選したアンソロジー。462ページ。

    「音楽のチカラで前進したい」「大切な人に共有したい」「あの頃の自分を取り戻したい」「音楽をもっと探究、学びたい」……音楽を愛する人のための心の一冊となるべく、この本を作りました。

    ▼Amazonで絶賛発売中!!
    『音楽愛 ONGAKU LOVE』の詳細・購入はこちらから

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the ROOTS]の最新コラム

SNSでも配信中

X

@TAPthePOP

TAPthePOPの最新情報をXでチェック

フォローする

Pagetop ↑

トップページへ