2007年7月10日、27歳を迎えた志村正彦はこれまでにないスランプの中にいた。
2004年にメジャーデビューしたフジファブリックだが、新曲のリリースが全くなかった2006年には、「曲ができないミュージシャンほど、世の中に必要ないものはない」と、かなり自分を追い込んでいた。
また、自分の曲が書けないのに対して、同じバンドメンバーが曲をたくさん書いてくるようになったことで自尊心も傷つけられた。
さらに落ち込んだ志村は、良いライブをすることによってなんとか均衡を保っていた、とその頃の日記による“振り返りインタビュー”で語っている。
2007年に入ってからは、再び順調にシングルがリリースされてアルバムのレコーディングも進み、フジファブリックの人気はますます上昇した。
ROCK IN JAPANやRISING SUNなど数々の夏フェスにも出演し、志村にとって念願だったフジロック・フェスティバルへの出演も果たしている。
しかし、夏フェスなどのライブイベントをこなしながら、アルバムのレコーディングも進めるという多忙さが、志村の身体を蝕んでいった。難聴のような症状が出たり、左右の目の見え方が違って見えたり、移動の飛行機の中で気分が悪くなって倒れたりすることもあった。
また、この頃から電車に乗ることができなくなる病気を発症している。病名は明かされてはいないが、過労とスランプによるストレスからくる心の病ではなかっただろうか。
そのようなスランプの中でも名曲は生まれた。2007年11月にリリースされた「若者のすべて」は、近年でもCMに使用されるなど、今も幅広く支持を集めるナンバーだ。この曲を作ることができたことで、志村自身も救われたと語っているほど、彼にとっても自信の1曲だ。
そして2008年1月、この「若者のすべて」が収録されたアルバム『TEENAGER』が、前作より2年2ヶ月ぶりにリリースされた。これに伴ってアルバム・リリース・ツアーも開催され、アルバムのキャンペーンやプロモーション、取材など、相変わらず忙しい日々は続いていた。
ツアー終了後には、志村の予てからの夢だった故郷、富士吉田市での凱旋ライブが待っていた。5月31日に富士五湖文化センターで行われたライブは、メジャーデビュー以来初めての地元での公演であり、志村自身にもかなり強い思い入れがあった。
しかし、富士吉田のライブを直前に控えた、中野サンプラザ公演終了後に喉のポリープが見つかってしまう。高音が苦しい中で全力を尽くした凱旋ライブの模様は、痛々しくも迫るものがあり、すべてをさらけ出した志村のカッコ悪くててカッコいい、そんな美学さえ感じられる。
富士吉田市で夢を叶えた志村は、翌月の1ヶ月間を休養にあてることにした。電車に乗られない病について、医者からは「いろんなこと考えないで、仕事も休まないと、何年後かに死んじゃうよ」と言われたという。
気軽に恋愛とかできればいいんですけど、僕そんな簡単に人と付き合えないですし。彼女と一緒にどっか行ってストレス発散みたいなことできればいいんですけど、僕は全くそういうのに適していない人間なので、捌け口がない。休養は必要だったんでしょうね。
この頃、食事もほとんど喉を通らなかったという志村は、まるで命を削りながら、それと引き換えに自身の夢を叶え、不器用なまま、ただひたむきに音楽と向き合っていた。
バンドが華やかな成功を手に入れつつあったその裏側で、過酷な日々を過ごしていたのだった。
参考文献および引用元:「東京、音楽、ロックンロール – 完全版」志村正彦著 ロッキング・オン
「TEENAGER」
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▼出演
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畠山美由紀 with 高木大丈夫(ギター)
奇妙礼太郎 with 近藤康平(ライブペインティング)
タブレット純(司会と歌)
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SS席 9,500円 (1・2階最前列)
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A席 6,500円
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