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JAMAICA 1982──変化の最中にあったレゲエ・シーンの熱気と、ゲットーの暮らしぶりを記録した写真集

2018.07.13

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 真昼のキングストンは、かんかん照りで、うだるような暑い日が続いていた。行き交う黒人たちの影は、足下で饅頭のように丸まり、伸びたり縮んだりしながら、ゆらゆらと通り過ぎていった。


世界各地の音楽家たちを数多く撮影してきた写真家であり、また音楽評論家としても健筆を奮う、石田昌隆。彼はプロとしてデビューする以前、24歳の時にジャマイカへと旅立った。53日間の滞在で撮影した写真と、当時を振り返る文章で構成された写真集が『JAMAICA 1982』だ。



写真家・吉田ルイ子がニューヨークのハーレム地区で1962年から暮らした日々を綴った『ハーレムの熱い日々』、ニューヨークのスパニッシュ・ハーレム地区の住人たちを撮影したブルース・デビッドソンの写真集『East 100th Street』にインスパイアを受けたという石田は、ニューヨークに代わる「ワクワクする場所」を求めて、興味を抱いたのがジャマイカだった。

ジャマイカ映画『ハーダー・ゼイ・カム』が1978年に日本公開され、翌79年にはボブ・マーリィの来日公演が行われたことで、レゲエは広く知られつつあったが、まだまだ日本には情報が入ってこなかった時代。ジミー・クリフの来日公演(1978年)も観に行っていたという石田は、ピーター・サイモンによる書籍『レゲエ・ブラッドライン』を穴の空くほど読んで、ジャマイカへの興味を募らせていく。



そして1982年7月。ニューヨーク経由でジャマイカへと降り立った石田は、キングストンのダウンタウンにある下宿を根城に、サウンドシステム、スタジオ、レーベル、ラスタ・コミューンなど、ジャマイカの音楽シーンのど真ん中に飛び込んでいってはシャッターを切り続けた。レゲエDJの先駆けであるU・ロイをはじめ、ビッグ・ユース、オーガスタス・パブロといった名だたるアーティストたちの若き日の姿が石田のカメラに収められている。また滞在期間中に開催された大規模なレゲエ・フェス「レゲエ・サンスプラッシュ」にもプレスとして入り、トゥーツ&ザ・メイタルズ、バーニング・スピア、アスワド、スティール・パルスなどのライブの模様も撮影している。



中でも米国にてメジャー・デビューを果たしたばかりで飛ぶ鳥を落とす勢いのイエローマンが、キングストン郊外の野外サウンドシステムで行ったステージを捕らえた写真とレポートは、生々しい現場の熱気がダイレクトに蘇ってくるような迫力だ。



そしてなんとも興味深いのが、トレンチタウンで出会った〈ターター〉という男とのエピソード。ボブ・マーリィの友人を自称する彼は、ある名曲の誕生に深く関わっているという。そのくだりについては別項に譲ろう。→関連記事:TAP the SONG|ボブ・マーリーの「ノー・ウーマン・ノー・クライ」の作者とされるターターと偶然に出会って撮影していた写真家

石田の視線はミュージシャンだけではなく、ゲットーの暮らしぶりにも向けられる。貧しくもタフに生き抜く人々の、いきいきとした表情はたくましく、眩しい。そうした生活のすぐそばには、いつもレゲエが鳴っている──『JAMAICA 1982』は、音楽シーンがダイナミックに進化する最中にあった1982年のジャマイカを、空気の振動もそのままに閉じ込めた貴重な一冊だ。


『JAMAICA 1982』

石田昌隆・著
『JAMAICA 1982』

(OVERHEAT)



石田昌隆(いしだ・まさたか) 写真家/音楽評論家。著書に、『黒いグルーヴ』(1999年)、『オルタナティヴ・ミュージック』(2009年)、『ソウル・フラワー・ユニオン 解き放つ唄の轍』(2014年)がある。現在、アルテス電子版で『音のある遠景』を連載中。撮影したCDジャケットに、矢沢永吉『The  Original  2』(1993年)、フェイ・ウォン『ザ・ベスト・オブ・ベスト』(1999年)、ソウル・フラワー・ユニオン『ウインズ・フェアグラウンド』(1999年)、『Relaxin‘ With Lovers』(2000~2018年 全15作品)、ジェーン・バーキン、タラフ・ドゥ・ハイドゥークス、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーン、ズボンズ、カーネーション、濱口祐自、LIKKLE MAIほか多数。旅した国は56カ国。


写真展「JAMAICA 1982」
2018年7月16日(月・祝)まで開催中
東京・原宿 BOOKMARC(ブックマーク)
東京都渋谷区神宮前4-26-14 TEL:03-5412-0351
*7月15日(日) トークショーあり
http://www.riddimonline.com/archives/15195

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