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ギャラガー兄弟を音楽の世界へと導いたストーン・ローゼズ

2017.05.02

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ノエル・ギャラガーがギターを弾き始めたのは1980年頃、13歳のときだった。

ある日、不良仲間たちと近所のお店を襲おうとして、半年間の保護観察処分となってしまう。
家から出ることができなくなったノエルは、父親が残していったギターを手に取ると、ラジオから流れてくる音楽を耳コピしながら、日々を過ごすのだった。
中でもビートルズの「涙の乗車券」と、アニマルズの「朝日のあたる家」をよく弾いていたという。

この頃からノエルは音楽とギターにのめり込んでいった。
初めて買ったレコードはセックス・ピストルズの『勝手にしやがれ』で、他にはビートルズやザ・ジャムが好きだった。
そしてザ・スミスがデビューすると、ジョニー・マーに憧れるようになる。

一方で5歳年下の弟、リアムはというと兄とは対称的に全く音楽に興味がなかった。

「理解不能って感じ。ギターを抱えてるヤツを見たら、嘲笑っていたぐらいだから。まったく愚にもつかねえことを、音楽をやるなんてさ、って」


兄同様に不良として有名だったリアムは、学校を卒業するとフェンスを作る仕事に就き、仕事以外の時間は酒を飲んだり女性と遊んだりすることに時間を費やしていた。

そんな2人がストーン・ローゼズのコンサートを観に行ったのは1988年の5月30日、ノエルが21回目の誕生日を迎えた翌日のことだ。
地元、マンチェスターのライヴハウス、インターナショナル2ではこの日、同性愛者への権利侵害ともいうべき地方自治法28条への反対を掲げたDJパーティーが開催されていた。
そのゲストとして出演したのが、ストーン・ローゼズとジェイムズだった。

レコード会社と契約したばかりだったローゼズは、まだデビュー前で世間的には無名だったが、ホームグラウンドであるマンチェスターではすでにかなりの人気を集めていた。
先にステージに上がったローゼズは、途中で観客同士による喧嘩があったものの、それすらもバンドのエネルギーに変えてしまうほどの圧倒的な演奏で会場を熱狂させる。
ボーカルのイアン・ブラウンは、この日をローゼズのベスト・パフォーマンスの1つに挙げたこともあり、自分たちが取り掛かっている1stアルバムへの自信と期待がいいパフォーマンスにつながったという。

「俺たちは、あのアルバムに入れ込んでたし、後々まで残るクラシックになることを疑ってはいなかったよ。
そしてその自信があの夜溢れ出したんだ」




ローゼズの1stアルバム『ザ・ストーン・ローゼズ』について、ノエルは2015年にitunesストアで公開したお気に入りのアルバムリストの中で、こうコメントしている。

「今聴くとそういった風には聞こえないけど、当時これは別の宇宙からやってきたようにマジで思えたんだ。あの頃のローゼズは史上最高のバンドだったのさ」


The Stone Roses『The Stone Roses』
Sony


ストーン・ローゼズを生で観た日、ギャラガー兄弟はそれぞれ人生の節目を迎えた。
ノエルは会場に来ていたバンド、インスパイラル・カーペッツのメンバーと知り合いになり、彼らのローディー(楽器の手配、管理等をする仕事)をすることになる。
それはノエルがプロの音楽の世界に足を踏み入れた瞬間だった。

そしてそれ以上に大きく変わったのがリアムだ。
音楽に興味などなく、おそらくは酔っ払って騒ぐのが目的で来ていたであろうこの青年は、ストーン・ローゼズのパフォーマンスを観て、価値観を一変させた。

「ステージ上のイアン・ブラウンの存在感に目を奪われた。彼の歌は、音もはずれていたりしたけれど。それでもとにかく俺は感動したよ。
彼がステージから引っ込んだ時、自分の一部を持っていかれたような気がした。
あれからだよ、音楽を聞くことに夢中になり、どんどんのめり込んでったのは。
俺もバンドをやりたいって思った」


それぞれ別の道を進んでいた2人の人生は、1988年にストーン・ローゼズのコンサートがきっかけで、同じ方向を目指し始める。
リアムが加入したバンド、レインがオアシスに改名し、そこにノエルも加わることになるのはそれから3年後の1991年のことだ。


参考文献:
『オアシス・ヒストリーブック「テイク・ミィ・ゼア」』ポール・メイサー著/前むつみ訳(音楽専科社)
『ザ・ストーン・ローゼズ ディス・イズ・ザ・ワン』ミック・ミドルズ著/渡邉穣司訳(シンコー・ミュージック)

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