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パティ・スミス二十歳の決意〜16ドルだけを握りしめて辿り着いたニューヨーク

2019.01.14

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1964年、当時17歳でローリング・ストーンズに憧れていた彼女は、ある日人生を変えるほどのアーティストと出会う。
歌声、歌詞、ルックス…彼女はボブ・ディランのすべてに心酔する。

「ある日、母が仕事先でレコードを買ってきてくれたの。ドラッグストアーで店員をしていたんだけど、そこに中古レコードの安売りコーナーがあって“聴いたことのない人だけど、この人、あなたの好きな誰かさんに似てると思ってね”そう言ってボブ・ディランのアルバム“Another Side of Bob Dylan”を私にプレゼントしてくれたの。」



そして、さらにそんな憧れの人とそっくりな容姿に惹かれて手にした一冊の本があった。
フランスが生んだ孤高の天才詩人、アルチュール・ランボーの詩集だった。
ランボーに大きな刺激を受けた彼女は、ついにアーティストとして生きる道を選択する。
しかし、お金がなかった彼女は美術学校に行くことができず、奨学金を得て美術教師になるために進学する。
ところが、教師を目指す真面目な生徒たちの間で彼女は居場所を失ってしまう。
ドロップアウトしてしまった彼女は、卒業を前にして妊娠をする。
お腹の子の父親もわからない状況で、彼女は学校を辞めざるをえなくなる。
当時のアメリカでは妊娠中絶は違法とされていたため、彼女は子供を産み、その子を養子に出すこととなる。
将来への希望と赤ちゃんを失い…悲しみに暮れながら彼女は工場で働き始める。

「愛情深く教養ある家庭に私は子供を託した。自制心、集中力、そしてお金も持ち合わせてなかった私は教員育成カレッジを退学した。それでもお金は必要だったから、フィラデルフィアの教科書製本工場で最低賃金のアルバイトをすることになった。」


そんな数ヶ月を過ごす中、彼女は“どうにかしてアーティストの仲間入りをしたい”“誰もやってない服装、誰も作ってない作品づくりをしたい”そう熱望し続けていたという。
そして1967年の夏、二十歳になった彼女は人生の舵を大きく切り直すこととなる。
9歳の頃から育ったサウスジャージーの片田舎を後にして単身ニューヨークで暮し始めた。
わずかな現金(16ドル)を握りしめて、何のあてもないまま…逃げるように、祈るように、そして新しい未来を求めて……

「まずはニューヨークのすべての本屋をまわってやろうと思ったの。本屋の売り子は自分に持ってこいの仕事だと考えたから。昔ウェイトレスの仕事をしていた母は、私に白い靴と包装紙に包まれた新しいユニフォームをくれたわ。“あなたには向いてないと思うけど…でも、あげるわ”それは母なりの私へのサポートだった。」


ウェイトレスや書店員などの職を転々としていた彼女はホームレス同様の極貧生活をしていた。
そんな中、ある日彼女は一先ず泊めてもらうために知人のアパートを訪ねた。
ところが、その知人はすでにそこから引っ越しており、代わりにそこに住んでいたのが写真家志望の青年ロバート・メイプルソープだった。
同い歳でアーティスト志望の二人はすぐに親しくなり、ロバートは彼女が抱える悩みに対して親身に助言を与えてくれるようになる。
共同生活を始めた二人は、お互いの才能を伸ばしあうようになる。
彼女は書店で働きながら、詩を書き、絵を描き、時には演劇に出演したりするなどの芸術活動を始めた。
とは云え当時の彼女はランボーやディランに憧れる文学少女に過ぎなかったし、ロバートもまた、アーティスト志望の無名の若者に過ぎなかった。



当時のアメリカと云えば、ヒッピー文化が花開き、フラワーチルドレンが闊歩した「サマー・オブ・ラヴ」の時代である。
そして「スチューデントパワー」や「ブラックパワー」が吹き荒れた政治の季節でもあった。
彼女はあるインタビューで、当時の二人の出会いをこんな風に表現している。

「それは、コルトレーンが亡くなった夏だった。フラワーチルドレンたちが手のひらを広げた夏だった。そして、私がロバート・メイプルソープに出会った夏だった。」


中国が初の水爆実験を行い、ジミ・ヘンドリックスがモントレーでギターに火を放ち、ラジオからはカントリー歌手ボビー・ジェントリーのヒット曲「Ode To Billie Joe(ビリー・ジョーの唄)」が延々と流れていたという…



<引用元・参考文献『ジャスト・キッズ』パティ・スミス (著)、にむらじゅんこ/小林薫 (翻訳) 河出書房新社>
<引用元・参考文献『パティ・スミス完全版』パティ・スミス (著)、 東 玲子 (翻訳) 河出書房新社>
<引用元・参考文献『パティ・スミス―愛と創造の旅路』ニック・ジョンストン(著)鳥井賀句 (翻訳)/ 筑摩書房>

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