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パティ・スミスとチェルシーホテル〜前編

2022.11.22

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「下手クソなアート作品が壁に掛けられたエントランスホールを行き来するホテルの住民たち。ここは、スタンレー・バードが家賃代わりに押しつけられた大きな邪魔くさい品々に占拠されている。このホテルは、困難を切り抜けてなんとか生きている、あらゆるジャンルの多才な子供たちにとっては、エネルギッシュで絶望的な天国だった。」

(パティ・スミス)

その“伝説のホテル”は、マンハッタンの23th Street (23番街)沿い、7th Avenueと8th Avenueの間にある。
ビートニクス、ヒッピー、詩人、ミュージシャン、ロッカー、絵描き、物書き、フォトグラファーからジャンキー、アル中、浮浪者、ボヘミアン、酔っぱらい…ありとあらゆる人種やアーティストが通過していった希有な場所だ。
ここで起きた出来事や歴史は様々な人達に語られ、綴られ、映画の舞台にもなった。
1883年に建設されたが、当初は共同アパートとして使われていた。
ホテルとなったのは1905年のこと。

「私の父が1940年にホテル・チェルシーを引き継いだのです。」


そう語るのは、現在のこのホテルのマネージング・ディレクターを勤める、スタンレー・バード氏だ。

「父が1957年にリタイアし、私にマネジメントを教えてくれました。それ以来、50年以上に渡り私がこのホテルを管理しています。」


このチェルシー・ホテルを舞台に、数えきれない程の伝説や逸話が語り継がれ、そしてこの場所をテーマにいつくかの名曲が生まれた。
ジョニ・ミッチェルは、このホテルを題材に「チェルシー・モーニング」を紡いだ。
アンディ・ウォーホルが制作した映画『チェルシー・ガールズ』のためにルー・リードとヴェルヴェット・アンダーグラウンドのギタリストのスターリング・モリソンが同名の曲を共作し歌姫ニコにプレゼントした。



詩人のディラン・トマス、『トム・ソーヤーの冒険』の筆者マーク・トウェイン、『2001年宇宙の旅』の作家アーサー・C・クラーク、短編小説の名手オー・ヘンリーを筆頭に、アレン・ギンズバーク、ウィリアム・バロウス、チャールズ・ブコウスキー、アーサー・ミラー、アンディ・ウォーホル、ボブ・ディラン、レナード・コーエン、ジョン・レノン、ジム・モリソン、ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックス、クリス・クリストファーソン、イギー・ポップ、トム・ウェイツ、ジョニ・ミッチェル…彼らはチェルシーホテルの住人または長期宿泊客だった。
そしてパティ・スミスが盟友ロバート・メイプルソープと一緒に住んでいたのもこのホテルだった。

──1967年の夏、パティ・スミスは8歳の頃から育ったニュージャージーの片田舎を後にして単身ニューヨークへと旅立った。
わずかな現金(16ドル)を握りしめて、何のあてもないまま…逃げるように、祈るように、そして新しい未来を求めて。
当時のアメリカと云えば、ヒッピー文化が花開き、フラワーチルドレンが闊歩した「サマー・オブ・ラヴ」の時代である。そして「スチューデントパワー」や「ブラックパワー」が吹き荒れた政治の季節でもあった。

「芸術家は自分のことを分かってくれる」という、思い込みにも近い考えがあった彼女はランボーやディランのようなアーティストの愛人になりたいと、当時は本気で思っていた。
そうした空想を取り去り、自身も芸術家としてやってゆくことを決意させたのが、ニューヨークで出会ったロバート・メイプルソープの存在だった。
彼女はあるインタビューで、当時の二人の出会いをこんな風に表現している。

「それは、コルトレーンが亡くなった夏だった。フラワーチルドレンたちが手のひらを広げた夏だった。そして、私がロバート・メイプルソープに出会った夏だった。」


彼女はニューヨークに着いて間もない頃、ウェイトレスや書店員などの職を転々とし、ある時はホームレス同様の極貧生活をしていたという。
そんな中、ある日彼女は一先ず泊めてもらうために知人のアパートを訪ねた。
ところが、その知人はすでにそこから引っ越しており、かわってそこに住んでいたのが、写真家志望の青年ロバート・メイプルソープだった。
その後、同い歳でアーティスト志望の二人は親しくなり、お互いの才能を伸ばしあうようになる。
とは云え当時の彼女はランボーやディランに憧れる文学少女に過ぎなかったし、ロバートもまた、アーティスト志望の無名の若者に過ぎなかった。
そんな二人を大きく変えたのが、1970年頃から滞在(共同生活)していたチェルシーホテルでの日々だった。

「チェルシーホテルではアートと引き換えに部屋を借りられると聞いたの。私が以前パリで描いたドローイングは価値があるものだと思っていし、ロバートの写真は当時ロビーに飾られていた作品すべてを凌ぐクオリティだと確信していたわ。私とロバートは自分たちを売り込むために、バード氏のオフィスを訪ねたの。」


その時、彼女たちの目の前に姿を現したのがチェルシーホテルの住民ハリー・スミスだった。
彼は1952年にアメリカフォーク音楽のコンピレーション『Anthology of American Folk Music』を発表した音楽プロデューサーで、後のフォークブームに大きな影響を与えたとされた人物。
ワイルドなグレーの髪、もつれたあご髭、そして好奇心いっぱいの輝く瞳はバディ・ホリー風の黒ぶち眼鏡によって一層拡張されていた。
二人を見た彼は、まるで爆撃でもするかのように次々と質問を浴びせかけてきた。

「君たちは誰?お金持ちの双子?どうして手首にリボンを巻いているの?」


パティは答えた。

「私たちスミス一族は、一度もお金持ちになったことがないわ。」


続けざまに彼女は“前向き”なアプローチでハード氏に訴えかけた。

「ロバートの写真は宿代よりも価値があるわ。担保として私たちのポートフォリオ(作品集)渡します。」


ハード氏は最初懐疑的だったが…二人の入居(滞在)を許可した。
握手を交わし、パティは早速部屋の鍵を受け取った。

「1017号室。チェルシーホテルに滞在するには一週間に55ドルが必要だったわ。」


10階にあるその部屋は、客室の中で最も小さな部屋だったという。
壁は淡いブルーで、部屋の中心にはクリーム色のシェニール織のベッドカバーが掛かった白いメタルフレームのベッドがあった。
床には色褪せたレースの敷物が布かれており、その上に白黒のポータブルテレビが置かれていた。

「ロバートと私は、それまで一度もテレビを持ったことがなかったの。」


様々のアーティスト達が“たまり場”としていたこの歴史的ホテルでの数々の出会いが、アーティストとしての彼らを形作ることとなる。
中でも、アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズ、サルバドール・ダリ、ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックスといった人間との交流が二人を大いに刺激した。
彼女は同じ“チェルシーの住人”でもあった(現在は俳優としても知られる)劇作家のサム・シェパードから戯曲の共作を依頼されたりして、徐々に活動を活発化させる。
1971年、アンディ・ウォーホルの初期共同制作者であるジェラルド・マランガの、セント・マークス教会での朗読会の前座として出演することとなった彼女は、すでに知り合っていたギタリスト(当時はレコード屋の店員をやりながら音楽評論を書いていた)レニー・ケイのエレクトリックギターに詩を乗せてポエトリーリーディングを行い、詩人としての一歩を踏み出したのだ…

<後編に続く>


──2011年の夏、チェルシー・ホテルが創業100年を越える歴史に幕を降ろすというニュースが流れた。
かねてから経営難が噂されていたが、ついにデベロッパーに買収されて実質的な閉鎖となった。全250室あるホテルには現在100名の「住民」がいて、彼らは引き続きそこに住む事が許され、新たな宿泊予約は受け付けておらず、今後は高級ホテルかマンションとして改装されるという。

<引用元・参考文献『ジャスト・キッズ』パティ・スミス (著)、にむらじゅんこ/小林薫 (翻訳) 河出書房新社>





こちらのコラムの「書き手」である佐々木モトアキの音楽活動情報です♪
宜しくお願い致します。



【歌ものがたり2022 雨ニモマケズ風ニモマケズ】

11月3日(木・祝)群馬・前橋 呑竜横丁 
11月22日(火)札幌SALINAS
11月23日(水)恵庭Mojo Hand 
12月2日(金)大阪 大きな輪
12日3日(土)和歌山OLD TIME
12月4日(日)広島Jammin’ bar
12月10日(土)福岡NIKAI
12月11日(日)北九州・黒崎 居酒屋 中村屋
12月13日(火)新宿UNDERGROUND Azzitto1224
12月22日(木)金沢JealousGuy
12月24日(土)福井・あわら市 専念寺

↓チケットご予約&公演詳細・共演者情報はこちら
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12733736025.html



【歌ものがたり2023 今夜すべての歌酒場で】

1月14日(土)長崎タンゲ食堂
1月15日(日)佐賀(唐津)DEN
1月20日(金)大牟田BAR LAST NUMBER
1月21日(土)行橋Rock ‘n Roll Bar Memphis
1月22日(日)二日市COFFEE AND CIGARETTES
1月26日(木)福岡(警固)呑処 岡ひろ
1月28日(土)米子 海あに💋
1月29日(日)岡山Record BAR COZY
1月30日(月)兵庫IL grazie伊丹店
2月9日(木)名古屋 ROLLING MAN
2月10日(金)京都Bar USAGI
2月11日(土)浜松Esquerita68
2月12日(日)東海市 Funky LIVE Diner ダイナマイト
2月17日(金)佐賀 雷神💋
2月18日(土)福岡 Bar KINGBEE💋
2月19日(日)大分・宇佐 Michiyard cafe


↓チケットご予約&公演詳細・共演者情報はこちら
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12733736025.html






【THE HUNDREDS 佐々木モトアキ×NOBUYAN’ Special Acoustic Live Tour 2022 “Only 2Men-6Days”】

12月25日(日)名古屋 ROLLING MAN

↓チケットご予約&公演詳細・共演者情報はこちら
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12748624898.html




【TWO HUNDREDS 佐々木モトアキ×NOBUYAN’ Special Acoustic Live Tour 2023 東京公演 】

1月7日(土)東京・ZINC Asakusa

↓チケットご予約&公演詳細・共演者情報はこちら
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12768882625.html





【佐々木モトアキ×Keith “唄うたいと雷神” Autumn/Winter 2022 Japan Tour】

11月10日(木)大分・日田Chewing Gum
11月11日(金)佐賀 雷神 
11月12日(土)福岡・雑餉隈ZASSHO JAM
11月13日(日)熊本・八代7th chord
11月19日(土)札幌Log
11月20日(日)釧路 ガソリンアレイ
11月26日(土)高円寺MOONSTOMP
12月17日(土)埼玉・所沢MOJO


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【佐々木モトアキ×Keith “唄うたいと雷神” Spring/Summer 2023 Japan Tour #1】


2月3日(金)富山・高岡GOOD FELLOWS
2月4日(土)金沢JealousGuy
2月5日(日)新潟 Live Bar Mush
2月23日(木・祝)広島NANA
2月24日(金)岡山Desperado
2月25日(土)米子 海あに
2月26日(日)松江MUSICA LIBERUM @Miz
3月4日(土)横浜Bar Brixton Market
3月5日(日)静岡・三島 ぐらBar’s


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佐々木モトアキの楽曲「You」のミュージックビデオです♪
映像編集、ポートレート(写真)撮影共に、佐々木モトアキ本人が手掛けております。
とてもシンプルな技法ですが、何よりも登場する皆さんの表情が素敵です✨
人が“目を閉じている”表情。
その“瞼(まぶた)に浮かんでいる”誰かの顔。
繋がってゆく“一人ひとりの想い”が、100通りの、いや1000通りのドラマを描いてくれています。





佐々木モトアキ
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例えば執筆・編集のお仕事として、、、
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【佐々木モトアキ プロフィール】
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【TAP the POP佐々木モトアキ執筆記事】
http://www.tapthepop.net/author/sasaki

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