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ホセ・フェリシアーノの「ケ・サラ」が日本で発売された日

2019.04.25

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1971年(昭和46年)4月25日、プエルトリコ出身の盲目の天才ギタリスト/歌手ホセ・フェリシアーノの「ケ・サラ」(ビクター)が日本で発売された。
同年の洋楽/邦楽ヒットソングといえば…

【洋楽】
1位「Joy To The World 」/ スリー・ドッグ・ナイト
2位「Maggie May」/ロッド・スチュワート
3位「It’s Too Late」/キャロル・キング

【邦楽】
1位「わたしの城下町」/小柳ルミ子
2位「知床旅情」/加藤登紀子
3位「また逢う日まで」/尾崎紀世彦


1971年、日本では学生運動や安保闘争の火が燻っていた。
NHK総合テレビが全番組カラー化を実施し、『仮面ライダー』の放映がスタート、第48代横綱・大鵬が引退表明し、マクドナルド日本第1号店が銀座にオープン、そしてアポロ14号の月着陸に世界中が湧いた年でもある。



この歌は、イタリアの北西部リグリーア州インペリア県にある小さな町で毎年開催されているサンレモ音楽祭で1971年に準優勝を受賞したポップナンバーで、いわゆるカンツォーネ(イタリア民謡)をベースに紡がれた楽曲として知られている。
タイトルの“Che sarà(ケ・サラ)”という言葉は、日本語に訳すと「どうなってしまうんだろう?」という意味を持つという。
受賞の時はイタリアを代表する男女混合の4人組コーラスグループ、リッキ・エ・ポーヴェリ、そしてプエルトリコ出身のホセ・フェリシアーノの二組によって歌唱された。
この音楽祭の採点システムは、イタリアのシンガーと国外のアーティストが一組になり、あらかじめエントリーされた同一曲を歌うという変則的なものだった。
毎年入賞した曲は世界中でヒットする傾向にあり、若手アーティストにとってはスターに駆け上がる登竜門的なコンテストでもあった。



1960年代には世界的に“カンツォーネブーム”がおこり、サンレモ音楽祭は最盛期を迎えたのだが…70年代を迎える少し前あたりからイタリア経済が衰退しはじめ、規模の縮小を余儀なくされる。
ちょうどそんな最盛から衰退への間(はざま)で生まれたのがこの「Che sarà(ケ・サラ)」である。
作曲は、ジミー・フォンタナとカルロ・ペスとニコラ・グレコ・イターロの共作とされている。
そして作詞はフランコ・ミリアッチというイタリアの作詞家・音楽家の手によるもの。
ミリアッチが綴った原詞では、イタリアの小さな町の貧しさと、そこでの生活に退屈した若者が町を出て行く(祖国をあとにする)心情が描かれている。
さかのぼること約100年…1870〜1880年代。
イタリアは北部と南部で国民の生活レベルが大きく異なり、教育もあまり受けていない多くの南イタリア人(特に農民たち)がアメリカのニューヨークに移り住んだという歴史がある。
ミリアッチはそんな移民達の過去と、60年代末に衰退しようとしていたイタリア経済を重ね合わせながらこの歌を綴ったのだろう。

丘の上に静かに広がる僕の故郷よ 
まるで横たわって眠っている老人のようだ
退屈で無気力と何もないこと
それがこの町の病気だ
君を残して僕はここから出てゆくよ

これからどうなってしまうんだろう 
僕の人生がどうなるのか誰もわからない
何だってできるのか?何もなしえないのか?
明日、僕はそれを知るだろう
なるようにしかならないものさ


歌の主人公(青年)の胸中によぎる、先の見えない不安とやりきれない気持ち。
自分たちの暮らしている国で目の当りにする経済格差。
生きるために故郷をあとにし、恋人とも別れ…新しい仕事を求めて旅立たなければならない悲しい現実。
哀切、郷愁、守りたいもの…そしてわずかな希望。
時代背景も言語もちがう異国の歌が、我々の心に何かを訴えかけてくるような気がする。
歌というものには本来、そういう力があるのかもしれない…


1971年、日本では学生運動や安保闘争の火が燻っていた。
当時日本では、にしむらよしあきがこの歌に自身の政治思想を重ねて超訳した。

権力と闘いながら平和と自由を訴えていた学生達が集会や歌声喫茶などで合唱していたという。
原曲の歌詞の内容とは異なり、にしむらによる日本語の歌詞では「決して負けない」「決して倒れない」「自由のために死を選んだ」など、政治思想・革命思想が見え隠れし、1960年代後半から1970年前半にかけて日本で起きた政治運動の残熱を感じることができる。


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