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ドアーズの「ハートに火をつけて」から聞こえる、ホセのクリスマスソング

2024.07.02

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1960年代半ばから、アメリカ西海岸のサンフランシスコやロサンゼルスを中心に起こったフラワー・ムーブメントでは、「ヒッピー」と呼ばれる若者たちがベトナム戦争反対を唱えてロックンロールを聴き、マリファナやLSDによって精神を開放して、平和な理想社会の実現を目指した。

「ラブ&ピース」を合言葉にしたフラワー・ムーブメントは全米から全世界にまで広がり、影響は音楽だけでなく文学やアートにまで及んだ。

そうした時代の精神を象徴するバンドとして、今なお語り継がれているのが、UCLAの映画学科にいたレイ・マンザレクと詩人と評価されるジム・モリソンが結成したドアーズである。

ジムの綴る“詩の世界”と、レイの弾くオルガンを前面に打ち出したロックで、ドアーズは60年代後半からサイケデリック・ミュージックの先頭に祭り上げられて異彩を放った。

1967年に発表されたデビュー・アルバムの『The Doors』は、ロック史上に残る名盤と評価する声が多い。なかでも白眉は7分を超す「ハートに火をつけて(Light My Fire)」と、ラストを飾った12分にもなろうかという大作の「ジ・エンド(The End)」だ。

それまでのポップスの常識をくつがえす曲の「ジ・エンド」は、ギリシャ神話にあった話を元にジム・モリソンが作詞したもので、父親殺しおよび母子相姦をテーマにした重い内容だった。これは後にフランシス・コッポラ監督の大作映画『地獄の黙示録』に使われて世界的にも有名になった。

ドアーズが目指した音楽はエンターテイメントでもないし、ポップソングでもないとレイは明言している。

ドアーズが作ろうとしていたのは僕らのハートからあなたのハートに通り抜けていくような音楽だった。つまり、詩(ことば)があなたの頭を打ち、ミュージックがあなたのハートを打つ、それが人間の性格や精神を震わせ、魂を揺さぶるようなものを音楽でやろうとしていたんだ。それが僕たちがやろうとしていたことだった。


それにもかかわらず「ハートに火をつけて」には、リスナーからラジオ局に多くのリクエストが寄せられた。 


間奏でオルガンとエレキギターによるプレイが4分以上もある長い曲をオンエアすることなど、当時のラジオではまったく考えられない時代だった。そこで急遽テープを編集して、3分7秒まで短縮したショート・ヴァージョンが作られた。

それがシングル盤で発売されるとたちまちブレイクし、エンターテイメントでもポップソングでもないのに、全米第1位を獲得する大ヒットになった。

その余韻も冷めやらぬ1968年、今度はプエルトリコ出身で盲目の天才ギタリスト、ホセ・フェリシアーノによる「ハートに火をつけて」が、ラテンのアコースティック・アレンジでリバイバル・ヒットを記録する。

少しテンポを落として弾き語りのアコースティックギター、コンガとストリングスを加えられて、原曲よりかなりブルージーになったホセのヴァージョンは、全米チャートの3位にまで上昇するヒットになった。


ホセのエモーショナルな歌声の「ハートに火をつけて」で特に印象的だったのは、後半の盛り上がりに入ってから感極まったかのように、タイトルの「Light My Fire」という歌詞を3回ずつ繰り返してたたみかけるところだ。

ホセは「ハートに火をつけて」のヒットでグラミー賞の新人賞に輝き、一流シンガーの仲間入りを果たした後に、1970年の暮れに発表した自作のクリスマスソング「Feliz Navidad(フェリス・ナヴィダ)」を発表する。これが全米チャートでTOP10入りするヒットになって、ホセはラテン・ポップスの分野で確固たる地位を築いた。

ところでこの「Feliz Navidad」には、「ハートに火をつけて」からの影響が明らかに見受けられるのが面白い。

ホセが歌っているということ以外にも、どちらの曲でもタイトルにも使われた歌詞「Feliz Navidad」と「light my fire」が3回ずつ繰り返されるという構成になっている。(正確には「ハートに火をつけて」の3回目は、韻を踏んで「night on fire」)

この2つ曲はキーも同じで、しかもサビのメロディーがどことなく似ている。

ヒット曲の「Light My Fire」を繰り返し歌い続けたことで、ドアーズのハートからホセのハートに通り抜けていった音楽が、新しいメロディーをともなってホセから出てきたような感じがするのだ。

ドアーズの音楽がホセのハートを打ち、魂を揺さぶったことでホセの音楽が誕生したと考えるのは、あながち穿ち過ぎではないだろう。

ジム・モリソンが歌う重く陰鬱なロックの「ハートに火をつけて」と、スペイン語の陽気なクリスマス・ソング「フェリス・ナヴィダ」との間には、とてつもなく大きな隔たりがあるように思える。

だが、ホセ・フェリシアーノを間に置いてみると、意外にも両者がすんなりとつながっているのがわかる。ポップスのマジックというものはおそらく、そのあたりに隠されているものなのかもしれない。 


<こちらもご一緒にお読みください>
スペイン語の陽気なクリスマス・ソング「フェリス・ナヴィダ」が生まれた瞬間

ドアーズ『The Doors』
ワーナーミュージック・ジャパン


ホセ・フェリシアーノ『フェリシアーノ!』
SMJ

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