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ドアーズの「ハートに火をつけて」から聞こえる、ホセのクリスマスソング

2014.12.19

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1960年代半ばからアメリカ西海岸、サンフランシスコやロサンゼルスを中心に起こったフラワー・ムーブメントでは、「ヒッピー」と呼ばれる若者たちがベトナム戦争反対を唱えてロックンロールを聴き、マリファナやLSDによって精神を開放して、平和な理想社会の実現を目指した。

「ラブ&ピース」を合言葉にしたフラワー・ムーブメントは全米から全世界にまで広がり、影響は音楽だけでなく文学やアートにまで及んだ。

そうした時代の精神を象徴するバンドとして、今なお語り継がれているのがUCLAの映画学科にいたレイ・マンザレクと、詩人と評価されるジム・モリソンが結成したドアーズである。

ジムの綴る“詩の世界”と、レイの弾くオルガンを前面に打ち出したロックで、ドアーズは60年代後半からサイケデリック・ミュージックの先頭に祭り上げられて異彩を放った。

1967年に発表されたデビュー・アルバムの『The Doors』は、ロック史上に残る名盤と評価する声が多い。
なかでも白眉は7分を超す「ハートに火をつけて(Light My Fire)」と、ラストを飾った12分にもなろうかという大作の「ジ・エンド(The End)」だ。

それまでのポップスの常識をくつがえす曲の「ジ・エンド」は、ギリシャ神話にあった話を元にジム・モリソンが作詞したもので、父親殺しおよび母子相姦をテーマにした重い内容だった。
これは後にフランシス・コッポラ監督の大作映画『地獄の黙示録』に使われて世界的にも有名になった。

ドアーズが目指した音楽はエンターテイメントでもないし、ポップソングでもないとレイは明言している。

ドアーズが作ろうとしていたのは僕らのハートからあなたのハートに通り抜けていくような音楽だった。
つまり、詩(ことば)があなたの頭を打ち、ミュージックがあなたのハートを打つ、それが人間の性格や精神を震わせ、魂を揺さぶるようなものを音楽でやろうとしていたんだ。
それが僕たちがやろうとしていたことだった。


それにもかかわらず「ハートに火をつけて」には、リスナーからラジオ局に多くのリクエストが寄せられた。 


間奏でオルガンとエレキギターによるプレイが4分以上もある長い曲をオンエアすることなど、当時のラジオではまったく考えられない時代だった。
そこで急遽テープを編集して、3分7秒まで短縮したショート・ヴァージョンが作られた。

それがシングル盤で発売されるとたちまちブレイクし、エンターテイメントでもポップソングでもないのに、全米第1位を獲得する大ヒットになった。

その余韻も冷めやらぬ1968年、今度はプエルトリコ出身で盲目の天才ギタリスト、ホセ・フェリシアーノによる「ハートに火をつけて」が、ラテンのアコースティック・アレンジでリバイバル・ヒットを記録する。

少しテンポを落として弾き語りのアコースティックギター、コンガとストリングスを加えられて原曲よりかなりブルージーになったホセのヴァージョンは、全米チャートの3位にまで上昇するヒットになった。


ホセのエモーショナルな歌声の「ハートに火をつけて」で特に印象的だったのは、後半の盛り上がりに入ってから感極まったかのように、タイトルの「Light My Fire」という歌詞を3回づつくり返してたたみかけるところだ(2分46秒~)。

ホセは「ハートに火をつけて」のヒットでグラミー賞の新人賞に輝き、一流シンガーの仲間入りを果たした後に、1970年の暮れに発表した自作のクリスマスソング、「Feliz Navidad(フェリス・ナヴィダ)」を発表する。
これが全米チャートでTOP10入りするヒットになって、ホセはラテン・ポップスの分野で確固たる地位を築いた。

ところでこの「Feliz Navidad」には、「ハートに火をつけて」からの影響が明らかに見受けられるのが面白い。

ホセが歌っているということ以外にも、どちらの曲でもタイトルにも使われた歌詞、「Feliz Navidad」と「light my fire」が3回づつ繰り返されるという構成になっている。(正確には「ハートに火をつけて」の3回目は、韻を踏んで「night on fire」)

この2つ曲はキーも同じで、しかもサビのメロディーがどことなく似ている。

ヒット曲の「Light My Fire」を繰り返し歌い続けたことで、ドアーズのハートからホセのハートに通り抜けていった音楽が、新しいメロディーをともなってホセから出てきたような感じがするのだ。

ドアーズの音楽がホセのハートを打ち、魂を揺さぶったことでホセの音楽が誕生したと考えるのは、あながち穿ち過ぎではないだろう。

ジム・モリソンが歌う重く陰鬱なロックの「ハートに火をつけて」と、スペイン語の陽気なクリスマス・ソング「フェリス・ナヴィダ」との間には、とてつもなく大きな隔たりがあるように思える。

だが、ホセ・フェリシアーノを間に置いてみると、意外にも両者がすんなりとつながっているのがわかる。
ポップスのマジックというものはおそらく、そのあたりに隠されているものなのかもしれない。 


<こちらもご一緒にお読みください>
スペイン語の陽気なクリスマス・ソング「フェリス・ナヴィダ」が生まれた瞬間

ドアーズ『The Doors』
ワーナーミュージック・ジャパン


ホセ・フェリシアーノ『フェリシアーノ!』
SMJ

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