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スペイン語の陽気なクリスマス・ソング「フェリス・ナヴィダ」が生まれた瞬間

2014.12.18

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メリークリスマス”をスペイン語では ”Feliz Navidad(フェリス・ナヴィダ)”という。

その言葉を3回くり返すシンプルなクリスマス・ソングが、アメリカで誕生したのは1970年の夏だった。
作ったのは盲目のシンガー・ソングライター、ホセ・フェリシアーノである。

ザ・ドアーズの代表作「ハートに火をつけて(Light My Fire)」が、全米ナンバーワンの大ヒットになったのは1967年のことだ。

それからわずか1年後、ホセがカヴァーしたラテン・アレンジの「ハートに火をつけて」が、再び大ヒットして全米チャートで3位になった。
23歳のホセは1969年のグラミー賞で新人賞に選ばれる。


ホリデー・アルバム企画が持ち上がったのは1970年の夏だった。

アメリカでは一流のシンガーと認められると、クリスマスの時期に向けてホリデー・アルバムをリリースするのが、ほぼお決まりとなっている。
それはファンの要望に応えるためもあるが、毎年のシーズンで確実に売り上げが見込めるという、レコード会社のビジネス上の判断によるところが大きい。

1970年の夏、ホセは南カリフォルニアにある自宅にRCAレコードのプロデューサーのリック・ジャラードを招いて、クリスマス・ホリデー・アルバムの準備に取りかかっていた。

真夏の暑い最中にクリスマスの気分を引き出すのは難しい。リックは北アメリカの大雪の中で迎えるクリスマスや家族が囲む暖炉の思い出話などをしながら、なんとかホセのクリスマスの思い出を引き出そうとしていた。

しかしカリブ海に浮かぶ小さな島、常夏ともいえるプエルトリコに生まれたホセには、なかなかイメージがわいてこない。
それでもホセは5歳でアメリカへ移住して来る前に味わった、伝統的な祭りや料理、カリブに伝わる音楽についてリックに語り始めた。

クアトロ(Quatro)はスペイン語で数字の4を意味するとおり4弦の素朴な弦楽器で、カリブ海沿岸地域で主に使用される民族楽器である。
ホセは幼いころからクアトロを弾いて育った。

少し前に故郷のプエルトリコを訪ねていたホセは、そのときに叔父から手製の美しいクアトロをプレゼントしてもらった。
プエルトリコの最新のクアトロは5コースで10弦、独特の響きを持っている。

懐かしい気分に浸りながら、ホセはクアトロをリックに見せて短いリフを弾き始めた。
そして「Feliz Navidad」と言葉を乗せていると、リックがすかさず「ホセ、続けて!」と言った。

「Feliz Navidad」が生まれた瞬間だった。
それを受けてホセは英語でメッセージを乗せていった。


ホセはこの曲のレコーディングでギターとベースを演奏したほかに、陽気なプエルトリカン・スタイルに仕上げるためクアトロも弾いている。

スペイン語の陽気なクリスマス・ソング「フェリス・ナヴィダ」は、短期間のうちにカリブ海沿岸のスペイン語圏の国々や、アメリカ、カナダ、ヨーロッパなどに広まって、今では世界中で最もよく聴かれるクリスマス・ソングのひとつとなった。

なおホセがクアトロを演奏しながら歌う動画は、公式サイトでのみ公開されている。
http://josefeliciano.com/wp/feliz-navidad/

<文・阪口マサコ(MusicSommelier)>

ホセ・フェリシアーノ『Feliz Navidad』
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