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クリス・レアが描く夏の終わりの大人の恋

2018.08.30

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暦のページが夏から秋へとめくられると、燃え上がるような過ぎ去りし夏の恋を追想するような歌が聞こえてくる。

夏の恋、というと青春の特権のように思えるが、大人だって恋をする。
そして大人にとっても、浜辺や渚は、夏の恋の舞台となるのだということを、クリス・レアの「オン・ザ・ビーチ」は教えてくれる。

1986年に発表され、日本ではテレビ・コマーシャルでも使用され、人気を博したこの曲は、夏の残像が静かに煌くようなイントロで始まる。



ひとり、主人公の男は浜辺に佇んでいる。
夏の終わり。そして傾きかけた太陽に見守られながら見つめ合う恋人たち。
男は、そんな視線の向こう側に、彼女の名を呼ぶ。
向こう側。そこはかつて男が彼女といた場所だ。

♪夏の風には、ひとつの旋律が踊り
 この私をかつての場所へと
 連れ帰るのだ
 あの渚へ          ♪


1951年生まれのクリス・レアが初めてギターを手にしたのは22歳の時だ。
そう、彼は歌い始めた時すでに、大人だったのである。

エルトン・ジョンを育てたプロデューサー、ガス・ダッジョンの手によるデビュー・アルバム『何がベニーに起こったか』がリリースされたのは、それから5年後、クリスが27歳の時である。これほど遅咲きのミュージシャンも珍しいだろう。

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そんなバックグラウンドとハスキーな声が相まって、クリス・レアの音楽は、大人の世界を感じさせるのだ。

♪あの夏の秘密を、私は胸に秘めておく
 たとえ時の砂が
 その神秘を吹き飛ばしても
 ただ、あなたと私
 月の輝く夜空の下
 あの場所に私を連れ戻してほしい
 あの渚へ           ♪


そして男は、美しき追憶とともに生きていくことを宣言する。

♪永遠に、私の心は夢の中
 甘い記憶と共にある
 不思議な欲望の日々
 炎のように燃えた夜
 あの場所へ私を連れ戻してほしい
 あの渚へ           ♪


大人の夏は、実にロマンティックである。


<マツダ・エチュードCM(1987年)>



(このコラムは2015年8月13日に公開されたものです)


クリス・レア『オン・ザ・ビーチ』
ワーナーミュージック・ジャパン

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