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50年ぶりに蘇ったテリー・キャリアーの古くて新しいフォーク・ソング

2018.10.22

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レア・グルーヴのムーヴメントで見出されたシンガー・ソングライターのテリー・キャリアーは、1970年代にチェス・レコードのジャズ系レーベル、カデットからリリースされた“カデット3部作”と呼ばれる3枚のアルバムが今でも人気だ。

【一度は聴いておきたい魅惑のソウル・ヴォーカル①】テリー・キャリアー(前編)~ソウルとフォークとジャズの狭間で

しかし、彼のデビュー・アルバム『The New Folk Sound of Terry Callier』が1968年にジャズの名門、プレスティッジ・レコードからリリースされたことは、あまり知られていない。
2018年の今年、リリースから50年を記念して、アメリカではリイシュー盤が発売された。

1945年にシカゴで生まれたテリー・キャリアーは、1962年にチェス・レコードのオーディションで見出され、早速「Look At Me Now」でレコード・デビューを果たしている。そのプロモーションもかねてツアーを回るという話になったのだが、まだ高校を卒業していなかったテリーは、母親からツアーに行くことを反対される。そのことを会社に告げたことで、契約が打ち切られてしまうのだった。

高校を卒業して大学に通っている頃、ボブ・ディランの人気とともにフォーク・ソングがブームとなり、テリーもアコースティック・ギターを持って、コーヒーハウスなどでフォークを歌うようになる。

その頃にシカゴのクラブで観たのがジャズ界の巨人、ジョン・コルトレーンだった。彼の演奏を観て衝撃を受けたテリーは、コルトレーンのような迫力と情熱のある表現ができないのなら、やめたほうがマシだと思い、1年くらい音楽をやめてしまう。

しばらくして、フォークを基本としながらもコルトレーンのライブで経験した感覚を自分の演奏に取り入れて、それを人々に伝えたいと思うようになり、再びコーヒーハウスで歌うようになったという。

その頃の演奏を見て、「アルバムを出して見ないか」と声をかけたのがプロデューサーのサミュエル・チャーターズだった。「制作予算は少ないけど、あと二つくらいなら楽器を用意できる」と言われると、コルトレーンがいくつかのレコードでベーシストを2人起用していたことにならって、2本のベースを加えることにした。

そうして1964年、2人のベースとテリーのアコースティック・ギター&ヴォーカルの3人で、デビューアルバム『The New Folk Sound of Terry Callier』がレコーディングされた。
楽曲はトラッド・フォークが中心だが、ジャズ的なアプローチにより洗練され、土臭さを感じさせない。そして何よりテリーの深みのある味わい深いヴォーカルは、録音当時19歳だったとは思えないほどだ。

しかし、このアルバムがリリースされたのは、それから4年後の1968年だった。
テリー自身もこのレコーディングのことを忘れかかっていた頃、レコード店へ行った弟が「兄貴の写真がジャケットになってるアルバムがあったよ!」と報告してくれたことで知ったのだという。
レコーディングからリリースまでの4年間の空白の理由は定かではないが、1968年というと、フォーク・ブームも下火になった頃だったというから不運だったといえよう。

そんな埋もれたテリー・キャリアーの名盤が、50年の時を経てアメリカで再発売された。今聴いても古さを感じさせない洗練された音は、深まる秋の夜長、しっとり聴きたいミュージック・ライブラリに是非とも加えたい1枚だ。

「900 Miles」



「Oh Dear, What Can the Matter Be」


Terry Callier『The New Folk Sound of Terry Callier』
CONCO


参考文献:waxpoetics japan 15号 テリー・キャリアーのインタビューより

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