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久世光彦と阿久悠が作った沢田研二主演のドラマから生まれた「時の過ぎゆくままに」

2024.03.02

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1975年にオンエアされたテレビドラマ『悪魔のようなあいつ』のテーマとして作られた「時の過ぎゆくままに」は、大ヒットを記録して沢田研二の代表作になった。

TBSの演出家でプロデューサーだった久世光彦は、沢田研二の魅力を最大限に引き立てるべく、彼が主演するドラマを企画した。

当時の久世はテレビドラマのヒットメーカーとして知られていたが、グループ・サウンズのタイガースからソロになって成功し、時代の寵児として輝いていた沢田研二に惚れ込んでいた。

そこで飛ぶ鳥を落とす勢いだった人気作詞家の阿久悠の力を借りて、それまでにない挑戦的なドラマを作ることにしたのである。
その主題歌は、もちろん沢田研二が歌った。

この企画はストーリーテーラーとしての才能を評価していた阿久悠のもとへ、久世のほうから持ち込まれたものだった。

これは昭和50(1975)年の作品である。同年6月から17週、TBS系で放送された「悪魔のようなあいつ」の主題歌として作った。
ぼくが沢田研二のために書いた最初の詞でもある。
こういうドラマ発でない限り、沢田研二との縁も考え難かったので、もしもこの機会を失していたら、その後の膨大なヒット曲も出なかったかもしれない。
そう思うと得難いチャンスであった。


沢田研二のけだるさを秘めた頽廃的な美しさに魅せられていた二人のあいだで、まず「色っぽい歌を作りたいね」と意見が一致し、久世は「時の過ぎゆくままに」というタイトルを決めた。

ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンが主演したハードボイルド映画、『カサブランカ』のテーマ曲だった「As time goes by(時が流れようとも)」からのいただきである。

阿久悠が書きあげた歌詞をもとにして、6人の作曲家に曲をつけてもらった。
荒木一郎、井上大輔、井上尭之、大野克夫、加瀬邦彦、都倉俊一という、その頃のヒットメーカー6人がコンペティションで競い合い、その中から選ばれたのが大野克夫の曲だった。

沢田研二が扮する可門良という悪魔のような少年は、時効の迫っていた東京府中市での3億円強奪事件の真犯人で、セントジョージ孤児院で育った孤児という設定だ。

可門良は藤竜也が演じる野々村が経営する「クラブ日蝕」で、淋しげに「時の過ぎゆくままに」を歌っているクラブ・シンガー。
そして野々村の稚児でありながらも、野々村の斡旋で一回10万円で体を売る男娼でもある。
しかも末期の脳腫瘍に犯されているために、時効を迎えずに死んでしまうかもしれないという恐怖を感じている。

沢田研二の魅力の上に全てが成り立っているドラマの主人公を、久世光彦はこのように規定していた。

「彼は刃物のように危険で、氷のように酷薄で鋭く、だからこそ甘美なロマンの国へ入れるライセンスを、たったひとり許されて持っている美しい青年である」


ドラマの原作は阿久悠、脚本は長谷川和彦、音楽は井上尭之・大野克夫、さらに漫画化の際は絵師の上村一夫を起用し、まさに久世人脈を総動員したかのような才能が集まった。

しかし同性愛がテーマで、劇中にはベッドシーンやレイプもあり、テレビドラマとは思えない内容と演出に、賛否両論が寄せられた。
ヒットメーカーの久世光彦にしては視聴率も、期待されたほどの数字が得られない結果となった。

だが石油危機後に訪れた70年代なかばの空虚な時代を映し出していたことで、一部の人たちから熱狂的に受け入れられて、テレビでのオンエアが終わってから、カルトとして語り継がれていったのである。

主題歌の「時の過ぎゆくままに」は大ヒットし、それまでの沢田研二のシングルのなかで最高の売上げを記録した。

阿久悠は生涯で作詞した曲が5000曲にものぼるが、「自分の作品で好きなものは?」という質問に対して、当然ながら「答えを出すのはなかなか難しい」としつつも、「いつ、どんな場でも、どんな機嫌の時でも」必ず選んだのは「時の過ぎゆくままに」だけだったという。

久世光彦もこう語っていた。

ぼくにとっては愛着のある作品で、自分のドラマを一本だけ選ぶとすれば、という質問には、この作品を挙げているんですね。




そしてテレビドラマ『悪魔のようなあいつ』と、「時の過ぎゆくままに」という歌の世界が、視聴者のひとりだった文学少女を刺激し、作家の中島梓(またの名を栗本薫)が誕生することにもなる。

推理小説作家としてデビューした中島梓は、久世からの依頼で1978年に沢田研二主演のドラマ『七人の刑事 特別編 悲しきチェイサー』で、原案と脚本を書いている。
テーマ曲に使われたのは、沢田研二のソロ・デビュー作の「君をのせて」だった。

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<関連コラム>
沢田研二の「君をのせて」から生まれた伝説のテレビドラマ『哀しきチェイサー』

(このコラムは2016年2月5日に公開されました)


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