TAP the SONG

〈吐きすて〉の歌の系譜④ 中島みゆき「狼になりたい」~深夜の吉野屋を舞台にした人間模様

2016.09.23

Pocket
LINEで送る

1979年にリリースされた中島みゆきのアルバム『親愛なる者へ』の収録曲に、24時間営業の飲食店を舞台にした『狼になりたい』という歌がある。

「♫ 夜明け間際の吉野屋では」と始まるこの曲を、ぼくが初めてNHKのスタジオで聴いたのはアルバムが発売になる直前だった。
歌い出しの1行目の歌詞で驚かされると同時に、心のなかで快哉をあげたことを覚えている。

日本にもついに一幕物の舞台劇、それもリアルな現実を描いて歌えるシンガー・ソングライターが登場してきたのだ。

「狼になりたい」
作詞・作曲:中島みゆき

夜明け間際の吉野屋では
化粧のはげかけたシティ・ガールと
ベィビィ・フェイスの狼たち
肘をついて眠る

なんとかしようと思ってたのに
こんな日に限って朝が早い
兄ィ、俺の分はやく作れよ
そいつよりこっちのが先だぜ

買ったばかりのアロハは
どしゃ降り雨で よれよれ
まぁ いいさ この女の化粧も
同じようなもんだ

狼になりたい 狼になりたい
ただ一度


店内の情景描写と心象風景、そこにある鬱屈や屈折、それらを自分の心のなかで語ったり、あるいは登場人物の代わりにつぶやいたり、そんなことばが中島みゆきの歌声で綴られる。

歌詞のイメージをふくらませる石川鷹彦のアレンジは、包容感と緊張感があってサウンドも印象に残るものだった。

NHK-FMで夜の10時台にオンエアしていた「サウンドストリート」という音楽番組でオンエアすると、リスナーからハガキで「心を撃ち抜かれた」とか、「頭をぶっ叩かれたようです」といった反応が寄せられた。

%e8%a6%aa%e6%84%9b%e3%81%aa%e3%82%8b%e8%80%85%e3%81%b8

向かいの席のおやじ見苦しいね
ひとりぼっちで見苦しいね
ビールをください ビールをください
胸がやける

あんたも朝から忙しいんだろ
がんばって稼ぎなよ
昼間・俺たち会ったら
互いに「いらっしゃいませ」なんてな

人形みたいでもいいよな
笑えるやつはいいよな
みんな、いいことしてやがんのにな
いいことしてやがんのにな
ビールはまだかぁ

狼になりたい 狼になりたい
ただ一度


主人公の心の奥で溜まっていくやるせない気持ち、「みんないいことしてやがるのに‥‥」という妬みと不満。
そんな気分を抱えたまま溜め込んで、それでも日々の暮らしを続けて生きている人々。

そして唐突に「ビールはまだかぁ!」ということばが放たれる。
吐き捨てるようなその声から、中島みゆきのロック・スピリッツが感じられた。

俺のナナハンで行けるのは
町でも海でもどこでも
ねぇ あんた 乗せてやろうか
どこまでもどこまでもどこまでも
どこまでも

狼になりたい 狼になりたい
ただ一度
狼になりたい 狼になりたい
ただ一度


一瞬だけ想像で思い浮かべる、希望的な未来。
その明るさもまた、「どこまでも」ということばを4回も繰り返すうちに、どうしようもないあきらめに覆われてしまう。

中島みゆきは日常で使われる話し言葉と字数がふぞろいの歌詞で、主人公の内面だけでなく、登場人物一人ひとりの気配まで感じさせて歌う。
そこから理不尽で酷薄な社会さえもが垣間見えてくる。

学生時代に吉田拓郎の大ファンだったという中島みゆきは、〈吐きすて>の歌という共通のエッセンスを持っているシンガー・ソングライターだった。


Pocket
LINEで送る

スポンサーリンク

関連アーティスト

関連するコラム

[TAP the SONG]の最新コラム

このコラムへの感想・コメントを書く

Pagetop ↑